第2章 柱〈前〉
そうか、この人自分の食べる量に慣れて感覚バカになってるんだな。勝手に納得してまたご飯を食べ進める。我ながら上出来だ。勿論他人に易々と出せる程ではないが。今回は特別である。
「うむ!馳走になった!」
「いえ、お鍋を空にしてくれてありがとう。」
尤も、これらを作ったのは私だが、食材を用意したのは不死川さんなのだから、お礼を言う相手を間違ってないかと思ったが、まぁ不死川さん本人がいいなら別にいい。
煉獄さんが帰ったあと、後片付けをした私は庭に出て、お昼もうたた寝した木の下に座る。冬の夜は音がしないから好きだ。春の暖かさも、夏の蒸し暑さも、秋の涼しさも、忘れてしまったけど。
やっぱりここは、お気に入りだ。人の家で何決めてんだって自分でも思うけど。
「…昨日もそこにいたなァ」
「…そう、ね。ここは、好きだから。」
不死川さんの声がする。それから、砂を踏むような音も。きっと不死川さんがこっちに来たんだ。
「…ねぇ。」
「なんだァ」
「たまにでいいから、明後日以降もここに来ていい?」
「勝手にしろォ」
お、いつでも来ていいんだ。互いに喋らず、時間が過ぎた。でも、居心地が悪いわけでもなく。いつでも寝れる感じ。
「お前、母親は好きかァ」
唐突な不死川さんの問いに目を開ける。好きか、かぁ…
「好きでは、ないわね。でも、感謝はしてるわ。それから、大好きだった。」
いくつの時に閉じ込められたかなんて忘れたけど、私を育ててくれた津衣さんには感謝している。それは確かだ。でも、どうしても好きにはなれなかった。あの人は私をもののけと言われても、否定しなかった。自分も思っていたからでしょう?だから私は、あなたをお母さんなんて思えない。私の母さんは、生まれ変わっても母さんだけだから。母さんに起こされるのが好きだった。母さんのご飯が好きだった。今はもう、食べられないから。
「…そうかァ」
「…そうよ。」
それだけ聞いて不死川さんは屋敷の中に入っていってしまった。結局、何が聞きたかったんだ。
「…あ?」
昼、忘れた書類を取りに来た時になんとなしに庭に目をやると、自分の屋敷で預かっている少女が木に寄りかかっているのが見えた。あんなところで何を、と思ったが、昨日もあそこで寝ていたらしく宇髄に起こされていたことを思い出す。今回もあの木の下で寝ているのだろう。