第2章 柱〈前〉
苦しむあの子を残して先に死ぬなんて事して尚のうのうと生きてるのに、そんな『死にそうならやらない』みたいな、逃げる様な生き方は私が許さない。あの子が許さない、の方が正しいか。
「そうじゃ無いと、なんだよ。」
「…なんでも無いわ。忘れて。」
あの子は、言わば私の罪の様なもの。背負うことが私の戒めであり、忘れないことが償いなのだ。
「私は生半可な気持ちで決めたわけではなくてよ、宇髄。貴方にどう言われようとやめる気はないわ。」
堂々と、彼に告げる。あの子のために、死ぬ訳にもいかないし、逃げる訳にもいかないのだ。
「納得していただけたかしら。」
「…それがお前の決意か?」
宇髄がただ一言呟いた。うーん、どうだろう。決意、じゃなくて…どっちかって言うと…
「覚悟、かな。」
違いはよく分からないが、きっとそう。これは決意などではなく、これからへの覚悟。絶対に、あの子の分まで。
「…そうか。」
ふ、と宇髄が笑った。ご満足いただけたらしい。よかった。
「邪魔して悪かったな」
「本当よ。ただでさえ痛くて堪らないのに。」
「舐めときゃ治るだろ。」
「骨折が舐めときゃ治る訳ないじゃないこの筋肉達磨。」
「おいこらやめろその地味な渾名。」
「やめる訳ないでしょ?ずぅっと根に持ってやるわ!」
「ほう…?」
「ちょっこわ早く出てって!」
「出ていく訳ねぇだろ派手に覚悟しろよ」
不死川さんが様子を見に来るまでお仕置きもとい骨折した腹を突かれ続けると言う拷問は続いた。痛くない程度で済ますのだから怖い男である。あの時の宇髄はとんでもない笑顔だったことをここに記しておく。