第2章 柱〈前〉
そう言いながら思い出すのはあの部屋にいて殆ど忘れてしまっても色濃く残り続けた昔の記憶。母親…津衣さんの手伝いをしようと包丁を握った時、矢張り刃物を持つのには早すぎたのか、指を切ってしまった。あの時の痛みは忘れまい。前世でもそう滅多に感じないほどの痛みだった。箪笥に小指をぶつけるなど可愛く思えるぐらい。
「痛みに弱い体質らしくてね、鬼殺隊について説明された時から無理そうだなって思ってたのよ。」
「…そうかィ」
「そ、そうよ。なのにあの筋肉達磨ときたら…」
しょんぼりと縮こまっていく不死川さんに慌てて悪いのは筋肉達磨なんだぞって雰囲気に多少強引に変えた。こんな人相悪いゲフンゲフン逞しい男の人がしょぼくれているとこちらまで不安になると言うものだ。
「それより、筋肉達磨と蜜璃は…」
「…甘露寺は任務だァ。宇髄は…胡蝶と話をしてる。」
「そう…」
文句の一つや二つ垂れてやろうと思ったが、話しているなら仕方ない。諦めるとするか。残念残念。蜜璃ちゃんは任務。怪我してこないか心配だ。まぁ私が治すけどな!身内贔屓の激しい最低野郎である。なんとでも言え。
「骨折なら治せるかしら…強い痛みっていうより持続的な痛みだものね…」
軽い気持ちで目を閉じた。痛い。が、我慢が効かない程ではない。きっと鎮痛剤でも打ってくれているのだろう。集中だ、集中。ふわり、と髪が踊り、風が頬を伝う。よしよし、いい感じだ。発動できてる。
でも痛いな…そう考えると風が揺らぐ。やっぱりこの異能は私の感情に左右されやすい。弱点であり難点であり頭を悩ます点である。デメリットしかねぇじゃねぇかこの野郎。
しばらくして風が止んだ。治ったか…?触ってみたら再度走るズキズキとした痛み。完治には程遠い。
「失敗…対象が自分だとなんでこうもうまくいかないのかしら…」
ガックリと項垂れた。他人相手なら楽々できるのに…何このクソ仕様。
「あら、目覚めたんですね。」
聞き慣れない声。確か…あの人だ。えっと、胡蝶さん。部屋に入って来たら私の状態を見たりとテキパキこなしていく。
「はい、重症ですね。」
「んっ…えぇ。」
そんなはっきり重症って言っちゃうんだ。ニコニコと笑う顔がなんとなく怖く思えて視線を逸らした。
「安心してください。宇髄さんはお説教しときましたから。」