第2章 柱〈前〉
おかげでこの男の頭の中は煩悩塗れだぞ。蜜璃ちゃんの単純な頭突きにも反応出来ない程考え込んでいたとは…。
「皆さん、宇髄は私が見ときますんで、今日の夕餉の買い物にでも行っててくださいな。」
「はぁ!?天元様にこんなことしといて」
「行ってて、くださいな!」
私の剣幕に吃驚したのか押し黙る三人。
「蜜璃もついて行っててあげてくれる?」
「え?いいの?」
「えぇ。私がちゃんと謝るから、機嫌取りのためのお茶菓子でも買って来て…」
「あっ…うん!」
正直言って謝って許してもらうには今回の件は重すぎる。全身全霊で媚び諂わねば。思わず乾いた笑いが溢れた。
「ぐ…」
宇髄の呻き声に顔をあげた。
「宇髄、聞こえる?」
私が問いかけるとおう、と小さい声で頷かれる。脳に異常は…なさそうかな。よかったよかった。よかないが。
「あらぁ…随分大きなコブね。」
「…てぇ…甘露寺の野郎…」
額をさすりながらボヤく宇髄。
「えーと…蜜璃は悪くないのよ。やれと言ったのは私だから。」
「知ってるわ。俺に頭突きかます前にド派手になんか言ってたろ。」
「…てへ。」
やめて睨まないで。本当に嫌がらせとかではないから。
布団から起き上がった宇髄に水を渡す。空の茶飲みを貰って座り直した。それから話したのは雛鶴さん達の『天元様を休ませよう作戦』を本人に説明した。話を聞き終わった宇髄の顔と言ったら。
「ってことは…最近妙によそよそしかったのも、お前らと絡んでたのも…」
「そ。あんたを休ませようってお嫁さん達の気遣い。側から見たら滑稽だったわよ。」
「まったく…」
困った様に顔を顰めた。いかにも「やらかした」って感じの顔で。ただしこのお馬鹿さんにお嫁さんを叱る権利は無い。それは彼が一番よく分かっている筈だ。いやぁ本当に滑稽だった。三人共彼の体を労ってるのに当の本人は私達に嫉妬してるんだから。
「ダサいわ。地味に。」
「くっそ、なんとでも言え…」
「じゃあなんとでも言うわね。お嫁さんに心配かけるなんて旦那失格よばーかばーか。自分の体調ぐらい自分で見極めなさい駄目男。それから」
「まてまて、ほんとに言うか?」
言うけれど?平然と返してやった。
『きゃあ、かっこよくてとっても可愛いわ、緋縁ちゃん!』
ちょっと静かにしましょう脳内蜜璃ちゃん。