第2章 柱〈前〉
「駄目ですよぉ!ちゃんと天元様には休んでいただかないと!」
いつまで続くの…これ。
あれから宇髄の視線が誰から見ても分かるくらい鋭くなった事に緋縁は気付いていた。あの視線に気付いてないのは嫁三人と甘露寺くらいだ。明らかにあの男私達を目の敵にしている。今だって必死になって私達に耳を済ませているかもしれない。もうストレス溜まりまくりなのだ。
「…やってられないわね。蜜璃。こちらにいらっしゃいな。」
「え?うん、どうしたの?緋縁ちゃん。」
緋縁は甘露寺の耳に口を寄せてこそこそと話し始める。話終わると甘露寺がびっくりした様に目を見開いた。
「で、でも…」
「いいからおやりなさいな!宇髄には私が後で謝っておきますから!」
そう言い部屋から立ち去る甘露寺と緋縁。
「何するつもりなんでしょう…」
「ついて行ってみよう、雛鶴、須磨。」
「え、えぇ…」
乾いた戸の開く音に宇髄は体を跳ねさせた。気付かなかったとは…最近嫁達のことばかり考えているせいで失態が多い。鍛錬が足りねぇな…音源を見るとそこには目の据わった緋縁と困った顔の甘露寺が立っている。その様子に思わず口角がヒク、と上がった。
「な、なんだ。こえぇ顔して。」
「う、宇髄さん…ごめんなさい!!」
「は?」
「蜜璃、一思いにいきなさい!」
「は?」
一体何を企んでるのか、全くもって分からない。すると、甘露寺が急に宇髄の方へ走り寄り、そのまま−−−−−−宇髄の頭に衝撃が走る。
「「「天元様ぁ!?」」」
須磨達の悲鳴が響く。それを最後に、宇髄の意識は途絶えてしまった。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥ…
宇髄の額から煙が出ている。まって、一思いにいけとは言ったけど、こぉれは…。
蜜璃ちゃんもこれは規格外だったらしくあら?と頬を赤らめている。
「て、天元様になにすんのさぁっ!」
戸の影から見ていたまきをさん達が一気に宇髄のところへ駆け寄る。三人共あわあわと忙しない。
「何って、蜜璃の『少し力を入れた』頭突きをお見舞いしたのだけれど。」
「少し力を入れたどころじゃないですよぉ!て、天元様ぁ!!」
「ちょ、須磨!そんなに揺らしたら…!」
須磨さんが起きてとばかりに体を揺する。そんな三人にまたまたため息をついた。なんで自分たちが構わなかったからって分からないんだ。