第2章 柱〈前〉
確かにあいつが来てから嫁も妹が出来たみたいだと明るくなった。旦那としても嬉しいことだ。だが。
「…はぁ、地味だな。」
「あぁ天元様、御免なさいぃ…!」
「駄目よ須磨、天元様に聞こえちゃうでしょ。」
「そうだよ、我慢しな。」
泣きじゃくる須磨とそれをなんとかと宥める雛鶴とまきを。しかし二人もどこか辛そうだ。
「いやぁ、なんでこんなことになったのかしら…」
「ほんとね…」
緋縁や甘露寺もため息を吐く。
そう、あの祭の神、宇髄天元の嫁である彼女らが、愛しあって来た宇髄を差し置いて甘露寺と緋縁にまんまと乗り換える訳がなかった。
話は宇髄邸にて休んだ翌日の出来事である。
「天元様、やっぱりお疲れよね…」
夕餉を用意しながら二人に言う雛鶴。
「そうですよう、天元様、柱になってから無茶ばかりです。」
「天元様が凄いのは、嬉しいけど…」
「やっぱり休んでもらいたいわ…」
重い、おもぉい空気の中、緋縁と甘露寺は厨へ赴くこととなった。
「お話ししてるわね!混ぜてもらう?」
「大事な話みたいだし、やめておきましょ。」
そう言い去ろうとしているーー甘露寺はともかくーー緋縁は知らない。彼女達は優しい宇髄にはもったいなさ過ぎる嫁、の他に、優秀なくの一であるという肩書を持つことを。
当然気配に敏感だし聴力も鍛えられている。だから気付かれるのも無理はないが、この時ばかりは夫優先で周りを警戒してもいなかった。
「そうだ!天元様は私達といたら私達のことを守ろうとしてしまうし、関わらないようにするのは?それなら天元様もゆっくり出来ませんか?」
「須磨、あんたねぇ…!」
「…いや、案外いいかもしれないわ。今から一週間なら、見張ってくれる人もいるし。」
今から一週間。見張ってくれる人もいる。そのフレーズに嫌な予感がした。緋縁と蜜璃がこの家に滞在するのは一週間だ。と、いうことは。
「あ、噂をすれば!」
ガラっと開いた戸から須磨さんが顔を覗かせて来た。緋縁が全てを察した様に顔を引き攣らせる。
それから須磨、雛鶴、まきをの三人は全力で宇髄を避けた。話も極力避けたしお風呂だって遠慮した。ああして宇髄に謝りながら。
それが返って宇髄を休ませまいとしているのだが、善良から始めた彼女達は気付かないだろう。
「あれから五日間経ってるわよ…もういいじゃない。」