第2章 柱〈前〉
ずっと手を振ってくれてるから振り返し続ける。するとは途端にこちらに走ってきた。何か言われる!?あたふたとしているとその子は私の前を通り過ぎて横の女性に抱き付いた。きっとお母さんだ。そうか、私の横にお母さんがいたのか。
じゃああの子はお母さんに手を振っていたのでは?
顔に熱が集まる。勝手に勘違いして手を振っていたなんて…!
「…これは、''恥ずかしい''かしら。」
声に出して改めて自覚した。すごく恥ずかしい。最初の子は私に手を振っていたのだと願おう。
何年ぶりだろうか。自分の感情が変わるのが手にとるように分かるのは。
いや、分からなかったんじゃない。分かろうとしなかっただけだ。だってあの部屋にいたときの私の感情は''怖い''と''辛い''と''苦しい''しかなかったから。
「耀哉さんに言われて靴を変えたから視点が低いわ…」
なんでもない話さえ呟いているのが心地良い。このまま日向ぼっこしていたいくらいだ。
「…『幸せ』、のせいね。」
こんなにふわふわするのはきっと、ここに広がるいろいろな形をした『幸せ』のせいだ。そうに違いない。
そうして『幸せ』に身を任せ、暖かい日差しの中うつらうつら。
あぁ、落ち着く。横で宇髄とか耀哉さんとか蜜璃ちゃんとかが笑っていたら、もっといい。
このまま、眠ってしまいたい−−−−−−。
「…こさま、巫女様!」
「…っえ」
ぱちん、と風船が弾ける様に意識が覚醒する。しまった、ほんとに寝ていた。太陽の位置はあれからさほど変わっていない。私が眠ったのは数分だけだろうが…蜜璃ちゃんと宇髄はまだ中にいるだろうか。ぼんやりとする頭を必死に働かせる。何故さっきまで賑わっていた大通りがすっからかんなんだ。
「あぁ、やっぱり巫女様だ!」
「…え」
みこさま、今巫女様って呼んだの?
「私です、覚えていませんか?」
「あ…上田様。」
「そうです!覚えてくださってたなんて、嬉しいなぁ!」
彼は一定期間ごとによく治療を受けに来ていた人だったはず。
いや、そんな事どうでもいい。宇髄達はどこへ行った。座っていた席にいない。
「巫女様、何故こんなところにいらっしゃるのです?」
「少し用があったの。じゃあ私はこれで失礼するわ。」
まさか、宇髄や蜜璃ちゃんたちは夢の中に出てきた幻なんじゃないか。急に不安になった。