第2章 柱〈前〉
「ところで。蜜璃、宇髄。」
私は真顔に戻して宇髄に問いかける。もう甘味が来た後だったのでぜんざいを食べながらなんだ、と応答してきた。
「それ、何?」
私の指差した先には、宇髄のぜんざいを食べた後の皿と、蜜璃ちゃんの桜餅を食べた後の皿を並んでる。その数なんと数十皿。
「お皿よ、緋縁ちゃん!」
「いや、そんなことわかっているのよ。」
首を傾げる蜜璃ちゃんに癒されながらはぁ、とため息をついた。個性的だなとは思っていたが、個性的の範疇を超えている。
「夜ご飯…食べられるの…?」
「心配しないで!ちゃんと腹八分目までにしとくわ!夜ご飯食べたいもの!」
それだけ食べて腹八分目にもなってないの?夜ご飯も食べるの?驚きしかない。
「甘露寺は体質的に俺らの倍は食わねぇともたねぇんだ」
「俺「ら」のって何?他の柱もそんなに食べるの!?」
信じられない。改めて自分の世界の狭さを知った。世の中にはこんなに大喰らいな人間もいるんだな。尚、こんなに食べる方が変わっているのだと言うことを知るのは遠い先のことである。
「ふぅ!おかわりお願いします!」
「ごちそーさん。」
「まだ食べるのね…」
周りの人も思わず二度見するのがいたたまれなくなって外に出る。
人で賑わう大通りをぼぉっと眺めていた。
(…こんな風に、人混みを眺めるなんて出来ると思わなかった。本当に、外に来たのね。)
窓から宇髄に乱入されたり、耀哉さんのところへ連れて行かれたり、外に出てから落ち着いて周りを見る暇なんてなかった。
無精髭を生やした男や、小物屋で自分に似合う簪を選んでいる女性。腕を組んで大人の真似をしているおませさんな男の子と女の子。私と同い年くらいの男の子と手を繋いで歩いているお爺ちゃん。
本当に、私の世界は狭すぎたんだ。
きゃーきゃーと遊び回る子たちと、ふいに目があった。するとその子は嬉しそうに手を振ってくる。驚いて目を見開いたが、ぎこちなく手を振り返すとにぱっとまた笑う。その様子にまたもや目を見開いた。子供ってあんなに笑うのか。
また別の子が手を振ってくれたので振り返す。楽しい、かも知れない。
さっき耀哉さんの屋敷で感じた''嬉しい''や、今感じた''楽しい''も、部屋に閉じ込められてからの数年間感じられなかった感情だ。