第1章 序章
「?」
キョトンとする桃色が揺れる。流石にこの状況で覚えてないとは言い難い。えと、と言葉が吃る。
「お館様の、御成です」
突然響く子どもの声。見ると屋敷の中に双子の姿があった。白いおかっぱに上品な着物を着ている人形の様な子達だ。
「やぁ子どもたち、元気で何よりだよ。」
次に来たのは穏やかな声をした男性だった。私は男性の顔を見てギョッとする。なんだ、あの額の。宇髄に聞こうと彼らの方を見ると、八人全員が頭を下げていた。私も慌てて宇髄の横に並ぶ。やるならやると言ってくれればいいのに。私だけ蚊帳の外だったではないか。
「お館様におかれましてもご壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます。」
蝶の髪飾りの人が言った口上、って言うんだと思う、それにありがとう、とお礼をするお館様とやら。この人が宇髄の言う『ある御方』なのだろうか。
「今回皆に集まってもらったのは私の都合なんだ。小芭内や蜜璃は折角の休みなのにすまないね。」
「いえいえ!お気遣い頂きありがとうございます!」
ほう、桃色は蜜璃ちゃんと言うのか。小芭内とやらは分からんが。
そんな事を考えていると、視線を感じた。見上げるとお館様がこちらを見ている。
「天元、その子が?」
「はい。異能を持つ巫女です。お館様の呪いを解けるのではと思い、連れてきました。勝手をし申し訳ありません。」
「いや、いいんだ。心配してくれてありがとう。」
「…のろい?」
え、呪い?病でなくて?
「宇髄、話が違うのではないかしら。」
「あぁ?おんなじ様なもんだろ」
「いいえ、全然違うわ」
「やめろォ、お館様の前だぞォ。」
ハッとしてまた頭を下げる。無礼の無い様にしなければ。折角外に出られたのに斬られるなんて御免だからな。
「面をおあげ。君が異能を使えるのは確かなんだね?」
「ぇ、ええ。」
たとえ偉い人だろうと高飛車はやめないぞ。逆にそう言う人ほど自分の私物に、とか考える人が多いんだ。数年閉じ込められてたけど、そう考えるやつは少なくなかった。
「私は産屋敷耀哉。名前を聞いてもいいかな?」
「名前…名前ね…覚えてないわよ、そんなもの。」
観念した様に言うと見張りの方々の視線が一斉にこちらに向いた。うわっ吃驚した。
「覚えてないとはなんだ。貴様自分の名前が言えんほど学がないのか。」