津軽高臣 【恋人は公安刑事】手のひらの虹 ※書き直し版※
第1章 デートの約束(主人公side)
金曜日の朝登庁すると、津軽さんの姿はもうなかった。
昨日津軽さんから電話を貰った時に、予定は聞いてたけれども、朝も登庁しないとは思ってなかった。
幾分の寂しさを感じない訳ではなかったけれども、明日は待ちに待った津軽さんとの初めての両思いになってからのデートだ。
寂しい気持ちなど、必要ない。
(それよりも、気合いを入れて、今日の仕事を定時で終わらせて、明日の準備をしよう!!)
昨日の津軽さんの電話で、デートのお弁当奉行に任命されたので、色々と早く定時で仕事を上げて食材の買い出しにも行きたい。
わたしは、自分のデスクに着くと、津軽さんに頼まれていた、ある事件関連の過去の捜査履歴の確認作業に入った。
事件の詳細に必要な資料が必要で、資料室に行こうと、立ち上がった時だった。
「瑠璃子さん、お疲れ様で〜す。公安課の永遠のニューフェイス黒澤で〜す!」
いつものように、高いテンションの黒澤さんに話し掛けられる。
「お疲れ様です」
と挨拶を黒澤さんにした。
(永遠のニューフェイスって自慢になってないですよね?という突っ込みは飲み込んで)
「瑠璃子さん、最近綺麗になりましたよね?」
黒澤さんの言葉に津軽さんを連想してしまうのは、考え過ぎだと自分に言い聞かせ、
「そうですか?」
とだけ返事をした。相手は公安刑事だ。動揺を見抜かれたのは、間違えなさそうだ。黒澤さんが腕を組んでじっとわたしを見ている。
「う〜ん。瑠璃子さん、恋人が出来ましたよね?」
黒澤さんのいきなりの確信を突いた質問に、今度は、本当に動揺してしまう。
返事に戸惑いが溢れ過ぎだと感じた時に、何時の間にか、黒澤さんの背後に立っていた後藤さんが、ぽかりと黒澤さんの頭を叩いた。
「黒澤、暇なら、この書類総務課に届けて来い!」
「後藤さん、俺は公安課の永遠のニューフェイスですよ〜、もっと優しい対応してください〜〜!」
「馬鹿かお前は、永遠のニューフェイスなら雑用頼まれても仕方ないだろ。油売る暇があったら、総務課にさっさと行って来い!」
「え〜俺のリフレッシュタイムが〜」
「香月資料室に行くなら、このファイル悪いが、返して置いてくれ」
黒澤さんの悲痛な叫び声は、聞こえなかった事にしたわたしだった。