津軽高臣 【恋人は公安刑事】手のひらの虹 ※書き直し版※
第1章 デートの約束(主人公side)
うな重弁当組と、うな丼セット組との間に流れる不穏な空気の中で、わたしは美味しい筈の、鰻が美味しく感じる訳もなく、黙々とうな重弁当を食べた。
隣の席の津軽さんは、うな丼に思いっ切り、マヨネーズとチリソースをかけている。
見てるこっちが気分が、悪くなりそうなうな丼を津軽さんは、パチンと割り箸を割って食べ始めた。
「相変わらず、猫でも避けて通る様な物を食う奴だな」
「だろうね。俺の舌は高貴だから、猫も避けて通らず得ないんじゃない?」
「ちっ、口数だきゃあ減らねぇ奴だな」
「ウサちゃん、こんな柄が悪い教官達に公安学校時代教わってたんだ〜、柄が悪いの移ってなくて良かったねぇ」
(へっ、返答に困る...!)
津軽さんが自分の腕時計をチラりと見た。
12:47pm
「津軽班は、加賀班と違って忙しくってさ〜。ウサちゃん、また連絡入れるよ」
「あ゛ぁ゛!」
津軽さんは、それだけ言うと、手をヒラヒラと振って百瀬さんと鰻屋さんから出て行った。
津軽さんと百瀬さんが鰻屋さんから出て行くのを確認した加賀さんが言った。
「クズ、あいつは、ハニトラの達人だ。ハニトラをかける事に躊躇などねぇ。そして、お前は銀室の中でも、銀さんの右手とも呼ばれている津軽の班に所属している。銀さんは、公安学校卒のキャリア組のエリート達を心底憎んでいる。クズ、お前は津軽班に所属している。この意味がわからねぇ程、お前はクズか?」
煙草の煙を燻らせながら、加賀さんがわたしの目を見つめて言った。
加賀さんが、口が悪くても、わたしを心配している事がありありと分かった。
「ご心配頂きありがとうございます。でも、わたし、今は、津軽班の一員として頑張って行きたいんです。わたしの公安学校での二年間が、決して無駄ではなかったと津軽さんにも、津軽班の皆さんにも、銀室長にも分かって欲しいんです。そうする事がわたしが公安学校時代に教えて下さった教官の皆さんに出来る唯一の恩返しだと思ってます。もう少しわたしを見ていて下さい」
津軽さんへのわたしの思いが本物で、津軽さんのわたしへの思いが本当である事を願って、わたしは、加賀さんの目を見つめて言った。
加賀さんは、吸っていた煙草を灰皿で揉み消すと、
「クズ、行くぞ」
それだけ言って鰻屋さんで、わたしの分の支払いも済ませて、鰻屋さんを出て行ったのだった。