第11章 父と娘の一日
手足を目一杯伸ばしてバタバタと動かしたり、寝返りを打って亀のように頭を擡げる様子は見ていて飽きないが、すぐに転がって褥の外へ出てしまうのには辟易した。
(ちっとも落ち着かん…夜はまだ寝るだけマシな方だったのか…)
昼間は政務もあり、結華の世話は専ら、朱里と乳母の千鶴がやっていることもあり、赤子の結華を自分一人で見る機会など、これまでなかった。
親の愛情とは程遠い環境で育った自分が、子の父親になるなど、結華が産まれるまでは想像もつかなかったが、赤子とは不思議なもので、産まれたばかりの結華をこの腕に抱いた瞬間、この暖かく柔らかな存在を俺が守ってやらねばと、何の疑いもなく思ったものだ。
起きては泣くだけだった赤子が日に日に大きくなり、動き出し、声を発する様は、本当に興味深く不思議で、見ているだけでも飽きなかった。
「結華…」
「あ〜、あぅ…」
丸々とした柔らかな頬を、ツンっと突いてみる。
キョトンと不思議そうにしていた顔が、ぱぁっと笑顔になる。
抱き上げて頬を擦り寄せると、きゃっきゃっと嬉しそうな声を上げる。
幸福とは、きっと、こんな瞬間なのだろう。
朱里と出逢い、結華を授かるまで、知らなかった感情だ。
今の自分はどんな顔をしているのだろうか。
(きっと、甘く崩れた顔だな。家臣どもには、到底見せられん)
「あ、あぅ…だぁ…」
伸ばされた小さな紅葉のような手を、己の手の中にそっと包み込む。
この先、何があろうと俺はこの手を離しはしない。