第10章 武将達の秘め事②
「あ、一応聞きますけど、光秀さんの好みって……」
これは聞いても良いものかと迷うところだが、光秀一人だけ聞かないというのも変だ。
顔色を窺いながら恐る恐る尋ねてみると、光秀の目がキラリと光ったような気がした。
「俺の好みか?俺は退屈しない女がいい。思わず意地悪したくなるような女…と言うべきか」
(それ、どんな女だよっ!この人の相手は、相当図太くないとできないよな……)
「皆様それぞれ、女人に対してご意見をお持ちなのですね!……ちなみに、今ここにはいらっしゃいませんが、信長様のお好みは、どのような女性なのでしょうね?」
ニコニコと屈託のない笑顔を見せながら、何気なく言われた三成の言葉に、一同は顔を見合わせる。
「御館様の女の好みか…そりゃやっぱり、器量良しがいいんだろうな…朱里も、可愛らしい面もあるが、顔立ちは相当な美女だしな」
「小娘の愛らしさは、あの屈託のなさだろう。美女だが、近寄り難い美女という訳ではないところが、お気に召したのかも知れんな」
「相当な気に入りようらしいな。最近は毎晩のように夜伽をさせておられるって聞いたぞ、本当か、秀吉?」
「っ…俺に聞くな、政宗。まぁ…珍しく大層なご寵愛ぶりではあるな……少し人目を気にして頂きたいぐらいだが…」
二人のイチャイチャぶりを思い出したのか、さっと顔を赤らめる秀吉を、皆は面白そうに見ている。
「朱里は、百戦錬磨の信長様を虜にさせるような手管を持ってるってことか?そんな風には全く見えねぇけどな」
「いや、それはないでしょ。あの子、どう見たって初心者じゃないですか?まぁ…信長様が初心な女が好みなら分かりませんけど…」
「信長様は女から責められるより、自分が責める方だろ?何にでも恥じらうような初心な女は、堪らないんじゃないか?」
「おいっ、お前ら、御館様の性癖を勝手に想像するんじゃない!無礼極まりないぞ!」
男同士集まれば、所謂そういう話も盛んになる。
今宵は皆、特に酒も進んでいて口も緩みがちになっているようだ。
これまで特定の相手を持とうとしなかった信長が、自ら望んで傍に置いている朱里のことが、武将達は正直なところ気になって仕方がなかったのだった。