第10章 武将達の秘め事②
「そう、怒るな、秀吉。お前だって、気にならぬ訳ではないだろう?他ならぬ大事な御館様を夢中にさせている女だ。朱里には何か、男を悦ばせる思いも寄らぬ手技があるのかもしれないぞ?」
ニヤリと意味深な笑みを浮かべる光秀を見た秀吉は、心底嫌そうに顔を顰める。
「光秀、てめぇ、いい加減なことばかり言うなっ!しゅ、朱里がそんな……」
怒りなのか恥ずかしさなのか、秀吉の顔は一気に赤く染まる。
可愛い妹分の夜の顔など、想像したくもない。
しかもその相手が、敬愛して止まない信長なのだ。
(お、俺の御館様が朱里の手管であれやこれやされて…乱れるとか…ダメだダメだ、そんなのはっ…御館様は常に力強くあられねばならん!多少強引なぐらいが、御館様だっ!)
「………秀吉さん、大丈夫ですか?」
「秀吉、お前…何、想像してんだよ?やらしいな」
「御館様に対して不敬だな、秀吉」
「秀吉様、お顔が真っ赤でございますよ。もしやお熱でも…」
(あぁっもうっ…コイツら、勝手なことばかり言いやがって…)
ダメだと分かっているのに頭の中に浮かんで離れない、破廉恥な妄想を打ち払おうと、秀吉は酒を一気に呷った。
すかさず光秀が、ニヤニヤ笑いながら、空になった盃に酒を並々と満たしてやると、秀吉はそれもまた一気に干してしまう。
今宵はもう、飲まずにはいられない気分になってしまっていた。
「どんどん飲め、秀吉。夜は長いぞ。御館様も今頃は、極上の酒を愉しんでおられよう…朱里という名の美酒を、な…」
「くっ…光秀、てめぇ、覚えてろよ…」
光秀の意味深な言葉で、またもや頭の中がいやらしい妄想に囚われかけた秀吉は、慌てて盃を呷る。
今宵もまた長くなりそうだ。