第10章 武将達の秘め事②
「公家衆からの縁談話は、俺にも山ほど来ている。まぁ、その都度突き返してやっているがな。俺が一向に奴らの話に応じぬものだから、俺の家臣や同盟相手を先に……ということらしい。
『城を落とすには外濠から埋めよ』ということだな」
「関心してる場合じゃないでしょ…ってそれじゃあ、この俺の縁談は、あんたのとばっちりじゃないかっ!
全くもう…どうしてくれるんだよ……」
(あぁ…頭が痛い。縁談なんて…嫁取りなんて…まだ考えたこともなかったし、考えたくもない。何より公家の姫が相手だなんて、面倒過ぎる)
「貴様も、もう、そういう歳なのだな」
「しみじみ言わないで下さい。いつまで俺を子供だと思ってるんですか」
「くくっ……」
「信長様っ!」
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「……へぇ、公家の姫との縁談ねぇ…よかったなっ!家康」
バシバシと肩を叩きながら陽気に言う政宗に、家康は嫌そうに顔を顰める。
「……政宗さん、酔ってるんですか?俺の話、ちゃんと聞いてました?」
「馬鹿っ…茶で酔うかよ。ちゃんと聞いてるって!二条家の三の姫っていえば、そこそこ美人だって噂だぞ。まぁ、公家の世界は御簾越しにしか窺い知れねぇから、噂の真偽は定かじゃないけど…良い話で良かったじゃねぇか?」
「よくないですよっ!縁談なんて、俺は受けませんから」
「何だよ、お前、恋仲の女でもいるのか?」
「っ……いません、けど…」
「いないんなら、良い話には違いないだろう。御館様が直々にお前の為に声をかけられたんだからな」
「ちょっと秀吉さんっ!余計なお世話です!公家の姫なんて、贅沢三昧、気位ばっかり高くて面倒なだけでしょ。俺はそういうのは苦手です」
世話焼き気質を発揮して話に割って入ってきた秀吉を、煙たそうにしながら、家康は手酌で酒を注ぐ。
今日はもう、思いっきり飲みたい気分だった。
「随分と偏見に満ちた意見だな…お前、公家の姫と何か面倒なことになったことでもあるのか?」
「なっ…あるわけないでしょ!お近付きにすら、なったことないですよ。けど、誰しも一応、好みってものがあるじゃないですか……あるでしょ?」
同意を求める意味で、一同をぐるりと見回した。
この戦国の世、自由な縁組など夢みたいな話かもしれないが、それでも、多少なりとも好みの女と恋仲になりたいと、誰もが思うはずだ。