第10章 武将達の秘め事②
とある日の夕刻
ここ安土にある伊達家の御殿の一室では、今宵もまた武将達による恒例の飲み会が行われていた。
「で、家康、お前は何で遅れてきたんだ?」
「………軍議に遅刻常習犯の政宗さんには言われたくないです」
ニヤニヤしながら徳利を差し出す政宗に、家康は苦々しく眉を顰めながらも盃を差し出した。
トクトクと盃に注がれた酒を、らしくもなく一気に飲み干す。
冷たく冷えた酒が喉を通り降りて、胃の腑をも冷たく冷やしていくと、苛々していた頭が少し冷静さを取り戻す。
そうすると、冷静になった頭には、先程交わしたばかりの信長との会話が浮かび上がってくるのだった。
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「話って何ですか?信長様がこの時刻に俺を自室に呼ぶなんて、珍しいこともあるもんですね」
時刻は夕餉の少し前だった。
今宵は武将達恒例の飲み会に誘われていて、そろそろ出なくては、と思っていた矢先に信長から急な呼び出しがあったのだった。
「貴様に内密の話があってな」
ニヤリと口の端を緩める信長の意地悪げな顔を見て、これはロクな話じゃないなと、家康は警戒心を露わにする。
こういう顔をする時の信長は、昔からいつも家康を困らせるのだ。
信長とは子供の頃からの長い付き合いで、尊敬もしてるし、本人には知られたくないが、ずっと憧れの存在でもあったのだが……信長の悪戯好きなところだけは苦手だった。
「何なんですか?勿体ぶらないで、さっさと教えて下さい」
どうでもいい感を全身から醸し出しながら心底嫌そうに言う家康に対して、信長はニヤニヤと嬉しそうに言い放った。
「家康、貴様に縁談話が来た」
「…………はぁ!?」
予想外の話題に、素っ頓狂な声が出てしまった。
(えんだん?縁談って言ったか、今?……ってか、何でこの人、こんな楽しそうなんだよっ!)
冷酷非情な魔王らしくなく、至極楽しそうに口元を緩めている信長の顔が何だかとても腹立たしい。
「相手は京の二条家の三の姫だ。二条は五摂家の家柄ゆえ、断るのは、ちと面倒だぞ?」
「っ…そんな嬉しそうに言わないでもらえます?大体、何で俺に?信長様だってまだ、正室を迎えてないのに…」
ジトっと恨めしげな視線を向ける家康を、信長はあっさりと受け流す。