第9章 武将達の秘め事①
「いつものように朝、天主へ御館様をお迎えに行ったんだが……昨夜は、そのっ…朱里と閨を共にされたみたいでなぁ…その、今朝も朝からイチャイチャと……」
「見たんですか!?秀吉さん」
「馬鹿っ、見るわけないだろ!っ…そのっ…声は、聞いちまったんだけど…あぁ、もうっ!俺は何をやってんだ!」
ガシガシと頭を掻き始める秀吉を、武将達は呆気に取られたように見る。
「……あの、声って…アレの時の声ですか?その…あの子の?」
「うわぁ!?言うな、家康っ!露骨に思い出しちまうだろ…」
「……………」
信長が小田原から連れ帰った北条家の姫
安土城に部屋を与えられ、時折、信長の囲碁の相手をしたりして過ごしていたようだが、武将達が気を揉んでいる間に、いつの間にやら信長と恋仲になっていた。
秀吉は当初から実の妹のように朱里の世話を焼いていたから、間接的にとはいえ、大事な妹の情事の際の喘ぎ声を聞いてしまい、相当な衝撃を受けたのだろう。
ましてや相手が、敬愛して止まない信長であったから、その心境は非常に複雑なのだろう。
「まぁ、恋仲の男と女なら、夜の余韻冷めやらず朝からヤッても不思議じゃないだろ?気にすんなよ、秀吉」
「そうだぞ、秀吉。意外にも、見たところ御館様はあの小娘にかなりご執心のようだしな」
「はぁ…全く、あの子のどこにそんな魅力があるのか、俺には皆目理解出来ないですけど。大体、信長様の好みって、あんな華奢な子でしたっけ?あの人の夜伽の相手はいつも、出るとこが出た豊満な大人の女じゃなかったですか?」
「う〜ん……」
確かに、信長のこれまでの一夜限りの相手は、後腐れのない大人の女ばかりだった。
閨の手練手管も豊富な、遊びの相手。面倒なことにならないよう、同じ女は二度と抱かない徹底ぶりだった。
それが一転……朱里はどう見ても生娘だっただろう。信長が初めての相手だったはずだ。そんな面倒を信長が敢えて選んだ理由が、家康には分からなかった。
「くくっ…さながら『源氏の君と若紫』を実践されている訳でもなかろうしな…」
「光秀、お前はまた、ふざけたことを……」
「何も知らない女を一から自分好みに躾けるってのも、まぁ乙なもんだけどなぁ。信長様にそういう趣味があるかどうかは知らないが……あっ、ちなみに朱里は、身体、貧弱じゃねぇと思うぞ?」
「………は?」