第8章 偽りの食事会
愉しい時間が過ぎるのはあっという間で、そろそろお開きにしようかと席を立った時には、辺りは薄暗くなりつつあった。
(っ…嘘っ…今、何刻なの?…もう暗くなりかけてる……)
皆と一緒に、食事処の暖簾を潜って外に出た私は、道々に早くも灯された灯りを見て愕然とする。
予想以上に場が盛り上がり、男女とも互いに話が弾んでいたのだが……まさか、こんなに時間が過ぎているとは思ってもみなかった。
日暮れ前どころか、もうとっくに日は落ちてしまっている。
(約束の時間、過ぎちゃってる…早くお城に戻らなくちゃ…)
「朱里さん、場所を変えて少し飲みませんか?」
店を出て呆然としていた私に、前の席に座っていた男性が話しかけてくる。
食事会でも、何かと私に話しかけてきた人だ。
「えっ?いえ、私はもう帰らなくては……あの、皆は?」
「ああ、皆さん各々、分かれていきましたよ?残ってるのは私達だけです」
「ええっ!?」
(そんなぁ…みんな、いつの間に…でも、私は早く帰らなくちゃ…こんなところで、ゆっくりなんてしてられない…)
「ごめんなさい、急いでますので私はこれで……」
クルリと男性に背を向けた私は、お城へ向かって走り出そうとしたのだが……
「っ……待って!」
「やっ…離して下さいっ…」
男性に腕を掴まれてしまい、強く引き寄せられていた。
髪を結い上げたうなじに、男性の熱い吐息がかかり、ぞわりと身体が震える。
「っ…やっ……」
囚われた腕を振り払おうと身を捩るが、しっかりと掴まれていて振りほどけない。
「朱里さんっ…」
男性の熱っぽい視線をすぐ近くで感じてしまい、自分の置かれている状況が急に恐ろしくなった。
(やだっ…どうしよう…怖いっ…信長様っ…)