第8章 偽りの食事会
食事会当日
「ねぇ、千代、髪飾りはこれでいいかなぁ?もうちょっと大ぶりのものの方がいいかしら?」
先程から何度も姿見の前に立っては、あれやこれやと合わせてみては話しかける私に、千代は呆れたように答える。
「姫様ったら、逢瀬に行かれるかのようなはしゃぎっぷりではございませんか…あまり派手に着飾っては、お一人だけ目立ってしまいますよ?」
「あ…そっか…そうだよね…」
人生初の友達との外出ということで、少し舞い上がり過ぎていたかもしれない。
今日は昼を過ぎた辺りから、もう落ち着かなくて、千代にあれこれ相談しては呆れられていたのだった。
(私はあくまで人数合わせの為の出席なんだから、あんまり目立っちゃいけないか…でもちょっとぐらいならお洒落しても…いいよね?)
落ち着いた色味の小袖に、今日は髪を高く結い上げてみる。
結った髪を後ろに流すと、首筋がすっきりして気持ちが引き締まるようだ。
差した髪飾りがシャラリと鳴る音が、耳に心地良い。
「じゃあ、千代、行ってきます」
「姫様…本当にお供しなくて宜しいのですか?護衛もなしに外出なさるなど……よく信長様がお許し下さいましたね?」
「大丈夫よ、私一人じゃないんだし…」
信長様にも、ちゃんとお許しを頂いている。……かなり渋々ではあったけれど、必死にお願いしたら最後には聞き入れて下さったのだ。
『暗くなる前に帰ること。他の女子たちと必ず一緒に行動すること。一人にならないこと』
(信長様ったら、まるで小さな子供に言うみたいに仰るんだもん…私のこと、何だと思ってるのかしら……)
秀吉さん並みに過保護な発言を平然となさる信長様に驚きながらも、兎にも角にも、外出の許可をもらった私は浮かれていた。
信長様の言いつけを頭の片隅に置きながら、心はもう早々と城下へと飛んでいきそうだった。