第8章 偽りの食事会
「まずは秀吉さんのお許しを得ないとね…でも、殿方との食事会だって正直に言ったら、絶対許してくれないだろうなぁ…。
女の子だけの外出だってことにすれば……」
秀吉さんに嘘を吐くのは気が引けた。
信長様に強引に安土に連れて来られて不安でいっぱいだった私に、秀吉さんは真っ先に優しく接してくれた人だ。
『困ったことがあったら何でも相談してくれよ』
そう言って、本当の兄のように私を気遣ってくれる。
少し過保護なとこもあるけど、信長様からの信頼も厚くて、頼れる人なのだ。
(秀吉さんに嘘を吐くということは、信長様に嘘を吐くのと同じだけど……でも、やっぱり皆とお出かけしたいっ…)
初めての友人との外出という魅力的な誘惑に抗えなかった私は、意を決して秀吉さんを訪ねるため、自室を後にしたのだった。
「秀吉さ〜ん、いる〜?」
そっと襖を開けて中を覗くと……秀吉さんは休憩中らしく、煙管を吸っていた。
(あ、珍しいな…秀吉さんが城内で煙管を吸ってるの)
「おっ、朱里か、どうした?お前が俺を訪ねてくるなんて…何か困ったことでもあったのか?」
少し慌てた様子で煙管の火を消そうとする秀吉さん。
(あ、急に来て悪かったかな…)
「秀吉さん、急にごめんね。煙管、気にしないで吸ってね」
「あ、ああ…いや、いいんだ。最近ちょっと仕事が立て混んでたんだが、ようやくひと段落したんで休憩してたんだ。
……御館様も少し時間が空いておられるようだから、朱里をお呼びになるかもしれないぞ?」
「や、やだ…秀吉さんったら…」
ニコッと屈託のない笑みを見せる秀吉さんは、邪念など全く無さそうだ。
邪念だらけの私は、胸が痛い……
「……で、どうしたんだ?」
少し心配そうに私の顔を覗き込む秀吉さんは、やっぱり優しい。
「あ、えっと…あのね、秀吉さん、今日はちょっとお願いがあって……」
「お願い?珍しいな、お前が願い事なんて。欲しいものとか聞いても、いっつも断ってばっかりなのに…」
「それは…信長様はいつも手に余るぐらい下さるから、勿体なくて…」
「御館様は、お前の喜ぶ顔が見たいんだよ。俺も、同じだけどな」
「秀吉さん……」