第8章 偽りの食事会
「わ、私はいつも信長様の言われるままで…」
(言われるままに、あんなことやこんなことを……)
信長様の目眩くような手管の数々が、脳裏に甦ってきて、身体の奥がかぁっと熱くなる。
「やっぱり大人の男って感じよね〜。強引にグイグイ来られると、流されちゃいそう…」
(うん、それはある…信長様との夜伽では私、毎回気を失ってて、気が付いたら朝だったりする…)
「はぁ…いいなぁ」
皆がうっとりと私を見つめてくるものだから、何だか戸惑ってしまう。
やっぱり信長様って凄いんだ、そんな凄い人を恋仲にできた私ってなんて恵まれているんだろうと嬉しい反面、少し心配になってきてもいた。
そんな超絶モテる信長様が、恋仲の女が私一人って……あり得ないかも。
(っ…どうしょう…何だかすごくモヤモヤする……)
「そうそう、朱里様、私達、今度、殿方とのお食事会を計画しておりますのよ!お相手は、城勤めの方や商家の息子さん達なんですけど、私たち女性の方の人数に都合がつかなくて……朱里様も出席して下さらない?」
「ええ?食事会って……?」
「城下のお店で夕餉をご一緒するんです。食事をしながら親睦を深めて…殿方との出逢いのきっかけですわ!」
「出逢い……?でも、それじゃあ私は……」
(既に、信長様という恋仲の相手がいる私は、その場に相応しくないのでは?)
「いいんですのよ!人数合わせですから…朱里様も、城下へはあまり出る機会がありませんでしょう?城の夕餉もいいですけど、城下のお店で食べる夕餉もまた、いいものですよ。単なる食事会だと思って、たまには息抜きに、ね?」
「あ…はぁ…」
(お城の外での食事…それはちょっと楽しみかも!)
安土に来てからずっとお城の中にいて、城下へは信長様が誘って下さった時にしか行ったことがなかった。
年の近い女友達との外出など、小田原でもしたことはなかったのだ。
薙刀教室のこの仲間たちは、私にできた初めてのお友達だった。
皆の強力な後押しのせいで俄然行く気になった私は、一応は秀吉さんのお許しを得てからという条件で、友人たちとの初めてのお食事会の約束をしたのだった。