第7章 生まれ日の意味
「……若っ!吉法師様っ…!」
「……………じい?っ…何で…」
予想もしていなかった声に、俯いていた顔を上げると……目の前には、くしゃりと顔を歪ませて泣きそうな顔をした政秀がいた。
馬の手綱を握ったまま、はぁはぁと息を切らして立ち尽くす政秀を信長は、自分でもよく分からない不思議な気持ちで見つめていた。
何故、じいがここにいるのか……
何故、そんな辛そうな顔で俺を見るのか……
「じい……何で…?」
整理できない感情のまま、再び同じ問いが口をつく。
「………私を、お呼びになったでしょう?」
「えっ……?」
「若…貴方が私をお呼びになるならば、私はどこにあろうとも貴方の下へ参ります。私がお仕えする御方は、貴方以外にいない。
吉法師様……帰りましょう、一緒に」
「じいっ……俺は………」
(俺は、じいに仕えてもらえるような人間じゃない…)
込み上げる感情を抑えて、グッと拳を握り締める信長の身体は震えていた。
(っ…吉法師様っ…)
心が強く揺さぶられたその瞬間、政秀は、小さな少年の震える身体をふわりと抱き締めていた。
傅役としての責務も、家臣としての道理も、どうでもよかった。
ただ、目の前の若君が愛おしくてならなかった。
「っ…じい……?」
信長もまた、こんな風に抱き締められるのは、初めてだった。
政秀は、厳しくて叱言が多く、赤子の頃からの付き合いなのに、いつもどこかよそよそしかった。
織田家の跡継ぎとして大事にされてると思う反面、それは愛情とは少し違って見えていたのだ。
けれど今、自分を抱き締めるこの暖かい腕は、純粋に信じられる。
「じいっ…ごめんっ…ごめんなさい…」
「若っ……」