第7章 生まれ日の意味
沈痛な面持ちの侍女は、話は済んだとばかりに、クルリと踵を返し、そのまま城の中へと戻ろうとする。
「待てっ!……ならばせめて、これを…母上に渡してくれ」
白い花の花束を、ずいっと差し出す。
詰んだばかりの時は瑞々しかった花弁が、ここに来るまでの間に少し萎れたようになっていて……それが何となく自分の沈んだ心を表しているようで哀しかった。
「………」
侍女の女は、逡巡するようにしばらくの間、花束を見ていたが、やがて、おずおずとだが受け取ってくれた。
目の前でガチャリと無慈悲に閉められた城門に、信長は母との間の長くて深い隔たりを、まざまざと見せつけられたような思いがした。
ビュウっと一際強く吹いた風が、信長の心の奥まで冷たく冷やし、これ以上ないほどに打ちのめされたような気持ちになった。
ああ…俺は何のためにこの世に生まれてきたのだろうか…
俺が今、この世に存在することを望んでいる者はいるのだろうか…
しばらくの間、堅く閉ざされた城門をギリギリっと睨み付けていた信長だったが、やがて唇をきつく噛み締めると、来た道を歩き出した。
来た時とは反対に、足が鉛のように重かった。
一歩進むごとに、ズシリと重りが下がったように心が沈む。
信長の心に比例するかのように、空もいつしか黒雲に覆われていて今にも、ひと雨きそうな様相を呈していた。
ーぽつんっ…
足元に落ちた小さな水滴
小さな点は、地面をじわりと濡らし、ゆっくりと広がっていった。
ぽつん、ぼつん、と続いて天から落ちてくる雨粒は次第に数を増し、やがてざあーっと勢いよく降り出した。
「っ………」
慌てて周囲を見回すと、遠目に大きな木が見えた。
足元の水溜りから泥が跳ねるのも気にせず、一気に駆け出した信長は、悠々と枝を伸ばす木の下へと潜り込む。
急な雨に着物は濡れてしまい、足元は泥に汚れてしまっていた。
俯くと、濡れ髪からぽたりと雫が落ちて顔を濡らす。
ぽたりぽたりと落ちる雫は、いつしか赤い瞳からも流れ落ちていた。
「っうっ…くっ…ふっ…」
きゅっと唇を噛み締める。
濡れねずみのような自分が、どうしようもなく惨めだった。
「っ…母上っ…」
応えてはくれないと、心のどこかで分かっていた。
「うっ…あ…じいっ…じいっ…」