第5章 信長の初恋
信長は、身を起こし、菜津に触れようとした瞬間、辺りに人の気配を感じて動きを止めた。
ピリピリと肌を刺すような殺気に、ぞわりと身が震える。
(っ…囲まれているのか…三、四、五……五人はいる。美濃の刺客か…?)
刀の柄にそっと手を掛ける。手が……震える。
初陣を済ませたと言っても、いまだ実戦の経験などないに等しい。
人を切ったことも、勿論ない。
だが…やらねばやられる。経験がどうとか言ってる場合ではなかった。
震える手にぐっと力を入れて柄を握り直し、鞘を払う。
「っ…三郎様っ?」
信長のただならぬ様子に、菜津は不安の色を隠せない。
「菜津…俺の傍を離れるな」
菜津をそっと己の背に隠した瞬間、鋭い刃が横合いから襲いかかる。
握り締めた刀を構えて受け止めるが、鋭い斬撃に腕まで震えるぐらいの衝撃が走る。
「っ…くっ…」
圧倒的な大人の力を見せつけられて、折れそうになる心を必死に奮い立たせる。
(こんなところで死んでたまるかっ…菜津も…俺が守らなくてはっ)
渾身の力を込めて、敵の刀を押し返すと、素早く構え直して次の攻撃に備える。
だが…相手は息も上がっておらず、余裕の笑みさえ浮かべている。
「……どこの手の者だっ?美濃か?それとも……」
「…………………」
答えの代わりに、再び鋭い斬撃が襲いかかる。
「くっ…うっ…」
間一髪のところで避けると、毛先がパラリと切られていた。
(あと少し遅かったら切られていた…)
ヒヤリとしつつ、ジリジリと後方へと後ずさっていると、たちまち距離を詰められる。
「くっ……」
これは、どうにもまずい、そう思った瞬間だった……
「っ…若っ!三郎様ーっ!」
「っ…じいっ!」