第37章 貴方の傍で
行きたい所が思いつかないと言う朱里を連れてぶらぶらと通りを歩きながら安土の町を見て回ることにする。
異国からの珍しい品がいくつも並ぶ店先を興味津々で覗き込む朱里の瞳は溢れる好奇心でキラキラと輝いていて、隣で見ていても飽きない。
「安土は本当に活気がありますね!私は京へ行ったことはないですが、安土は京の都以上の賑わいだと言われているそうですね」
「京や堺から安土へ移って来る者も多いからな。利に聡い商人達は先を見る目がある。国を豊かにするのは商いだ。旧来のつまらぬ制約を廃し、誰もが自由に商いができるようになれば安土だけでなく日ノ本全土が栄える。俺はこの国を異国とも対等に渡り合える強き国にしたいのだ」
「異国のような強き国…」
「この小さき国の中で限られた領土を奪い合って何になる?国も民も疲弊するだけだ。今のまま戦が続けば、やがてこの国は弱体化し、海の向こうの強き国々に飲み込まれてしまうだろう。益のない争いは一刻も早く終わらせて日ノ本を一つにしなければならん」
「信長様はそのために戦をなさるのですか?日ノ本の安寧のため、この国を一つにまとめ、異国に対抗するために…?」
「俺はこれまで数多の命を奪ってきた。大望のため今後も刃向かう者は容赦なく切り捨てるだろう。全てはこの国の安寧のためだ、などと綺麗事を言うつもりはない。どのような大義があったにせよ、奪った命は二度と戻らん」
「信長様…」
毅然と言い切った信長様の表情は感情が読み取れない淡々としたものだったが、それが返って修羅の道を行く信長様の揺るぎない決意を感じさせた。
(私は異国の文化や技術の物珍しさにばかり目を奪われていたけど、信長様はもっと先を見据えて異国との付き合い方を考えておられるんだわ)
海の向こうの国々がいずれこの国にとって脅威になるかもしれないなどと思いも寄らなかった。
新しく珍しいものに心惹かれて南蛮語を学ぶことに浮かれていた自分が何となく後ろめたく感じてしまい、我知らず表情が曇ってしまう。