第37章 貴方の傍で
その後、縫い物などしながら自室で過ごしていると、約束どおり三成くんが訪ねてきてくれた。
「三成くん、ありがとう!忙しいのにごめんね」
「いえ、大したことではありませんよ。また感想などお聞かせ下さいね。あ、そういえば朱里様は城下の書物屋へは行かれたことはございますか?なかなか良い品を揃えた店も多いですよ」
「そうなの?行ってみたいな」
安土城下は天下人である信長様のお膝元でその賑わいは京や堺を凌ぐほどであり、安土に来てまだ日が浅い私には知らぬことも多かった。
生家の北条家は関東一とも言われる大名家であるが、如何せん都から遠く離れた地では煌びやかな品々に触れる機会も限られており、安土に来て目にするものは全てが新鮮だった。
「よろしければ私がご案内しましょうか?」
「えっ…そこまでしてもらうのはさすがに悪いよ。三成くんも忙しいでしょ?」
「書物屋には頻繁に行っておりますから、遠慮は要りませんよ。城下は今、信長様のお誕生日が近いこともあり、いつも以上に賑わっておりますから、それを見るだけでも楽しいですよ!」
この月の十二日は信長の生まれ日であった。安土では毎年、盛大な生まれ日祝いが行われ、今年も各地の大名家や公家衆からの祝いの品々が月の初めからひっきりなしに届いていた。
城内も日に日に祝い事の華やかさが満ちてきている。城下もまた祭りの如き賑わいなのだろうか。
賑わう町の様子を想像すると好奇心が湧き上がってくる。
日頃は城内で過ごすことが多い私が城下へ行く機会といえば信長様との逢瀬ぐらいであり、行く度に活気溢れる町の様子には驚かされているのだ。
(いつも以上の賑わいだなんて一体どんな風なんだろう…)