第37章 貴方の傍で
「朱里様は勉強熱心で私も感心しておりますよ。書物もよく読まれていらっしゃるようで、書庫でご一緒することも多いですね」
「そ、そんなことないよ!書庫にはよく行くけど、興味のあるものしか読んでないから偏ってるし…」
三成くんにまで褒められるとは思っていなかったので、何だか慌ててしまう。
「安土城の書庫は広いですからね。お好きな本をお好きなだけ読まれたらいいと思いますよ。お探しのものがあれば、私にいつでもおお申し付け下さいね」
「ありがとう、三成くん」
それから最近読んだ書物のことなどを互いに話し始めると、三成くんは様々な分野の知識が豊富で聞き上手なこともあり、ついつい話が弾んでしまう。
その間、信長様は黙ってお茶を飲んでおられたが、ふと見ると眉間に皺が寄っていた。
「あの、信長様?もしかして…今日のお茶、濃すぎましたか?」
「は?…っ、いや、そんなことはないが…」
「そう…ですか?」
(そうなの?顔を顰めていらっしゃるから、てっきりお茶が苦かったのかと思ったのだけど…そうじゃないなら急にどうなさったのかしら?)
急に不機嫌さを醸し出した様子の信長に戸惑いを隠せなかったが、思い当たる理由もこれといって見当たらず、それ以上は聞けない。
政務を再開させた信長の邪魔をしてはいけないと思い、そそくさとその場を下がることにしたのだった。
(ついつい話が長くなって三成くんの手を止めることになっちゃったからお仕事の邪魔だったかな…次からはあまり長居しないように気を付けよう)
「朱里様、先程お話したものは後でお部屋へお届けしますね」
「ええっ!?い、いいよ、そんな…三成くんだって忙しいのに」
去り際に三成くんが天使の微笑みとともに声をかけてくれる。
新しく書庫に入ったばかりの絵巻物があると聞いて興味を見せた私に三成くんは早速それを届けてくれると言うのだ。
「いえいえ、この後は書庫へ行く予定でしたので構いませんよ」
「そうなの?」
(三成くんって本当に気配りのできる人だな。私に気を遣わせないようにいつも考えてくれてる)
安土に来たばかりでまだ慣れない頃から三成くんは私に何かと気を遣ってくれて、そのおかげで私は早いうちにお城の人達とも打ち解けることができたのだ。
更にありがたいことに三成くん以外の武将達も、信長様と恋仲になった私に変わらず接してくれていた。
