第36章 武将達の秘め事⑦
意味ありげな含み笑いを浮かべる政宗の言葉に、唐辛子で真っ赤になった煮物を口に運ぼうとしていた家康がうんざりしたように眉を顰める。
「……皆、随分とあからさまでしたね。俺はいつ信長様の我慢の限界が来るかと思うと、内心気が気じゃありませんでしたよ」
「おや、お前はそういったことには関心がないのだと思っていたぞ、家康」
「関心はないです。俺は別にあの子と信長様がどうとか、色恋がどうとか、そういうことはどうでも…って、あの、光秀さん、そのニヤニヤ笑い、止めてもらえますか?」
「っ、おい!お前ら、何の話だ?光秀っ、ニヤニヤするんじゃねぇ!」
「やれやれ…秀吉、全くお前は御館様以外のものが目に入らぬらしい。世間では恋は盲目とやら言うが、まさに…」
「こ、恋っ!?ば、馬鹿っ、光秀、てめぇ、変なこと言うな!」
「秀吉様はどなたかに恋をなさっておられるのでしょうか?」
「はぁ…三成の頭は平和でいいよね」
「はい、家康様。戦なき平和な世とは誠に良きものですね」
「おい、お前ら、話がズレてるぞ」
「政宗さんがおかしな事を言い出すからですよ」
「別におかしなことは言ってないぞ。今年の謁見に来た大名達の一番の目的が信長様との縁談だっていうことは側から見ても明らかだっただろ?皆、我先にと自分の娘を売り込んできてたな。祝いの席だから信長様も表立って不機嫌さを顔に出すわけにはいかなかっただろうし、正月からとんだ災難だったな」
「平時から御館様への縁談は頻繁に来ているが、確かに今年の年始の会は目に余るほどだったな。年頃の娘を持つ大名が例外なく声を上げていた気がする。けど何でまた急に…?」
不可解そうに首を捻る秀吉に光秀は双眸を瞠る。
「おや、人誑しのお前が気付かぬとはな。大名達は焦ったのだろう。これまで婚姻に一切の興味を示されなかった御館様が急に見目麗しい姫をお傍に置かれるようになったとあってはな」
「はぁっ!?」