第35章 昼想夜夢
そうして充実した毎日を過ごし、予定どおりの日程を終えた私達はたくさんの思い出とともに大坂城へと戻ったのだった。
「秀吉さん、お疲れさま。色々手伝ってくれてありがとう!」
「いや、俺も久しぶりに子供達に囲まれて楽しかったよ。こういうのはまたやりたいな」
初めての試みだったが、皆の協力もあって大満足のうちに終えられた。子供達からも来年もまたやりたいという声が上がっていたし、これからも毎年恒例の催しにしていければと思っていた。
秀吉さんと別れた後、遊び疲れて帰る途中で眠ってしまった吉法師を布団に寝かせると、すぐさま天主へ続く廊下へと向かう。
早く信長様に逢いたい気持ちが溢れてしまい、私自身は疲れなど微塵も感じていなかった。
(早くお顔が見たい。僅か五日ばかりのことなのに『逢いたかった』なんて言ったら呆れられるかしら。でも…本当に早く逢いたい)
「信長様っ…」
早る気持ちから声もかけずに襖を引き開けた私は、急いで階段を駆け上がったせいで随分と息を乱していた。
「朱里…?」
はぁはぁ…と荒く息を吐きながら部屋の入口で立ち尽くす私に、信長様は少し驚いたように目を見張る。
「貴様…如何した?そのように慌てて…今戻ったばかりか?」
文机の前で書簡に目を通していた信長は、いきなり飛び込んできた朱里に驚きはしたものの、いつもどおりの余裕を見せて鷹揚に問いかけるが……
「っ…あっ…信長様っ…」
「なっ…貴様…」
感極まったように潤んだ瞳で見上げてくる朱里のせいで、信長の余裕は呆気なく崩壊することになる。
「一体何があった?子供らはどうした?」
入り口で動けなくなったように立ち尽くす朱里のもとへ近付きながら尋ねる。朱里の慌てぶりに子供達に何か良からぬことでもあったのかと思ったのだが……
「あ…子供たちはそれぞれの部屋に連れて行きました。二人とも遊び疲れたみたいで…吉法師は帰る途中で眠ってしまったので、布団に寝かせてきました」
「……では、皆、何事もなく無事に戻ったのだな?」
「は、はい…それはもちろん」
信長の問いかけに不思議そうな顔で首を傾げる朱里を見て、一気に力が抜ける。どうやら見当違いの心配だったようだ。
「はぁ…ならば何故…貴様はそんな顔をしているのだ?全く…訳が分からん」
「えっ…?あっ…」