第35章 昼想夜夢
『孤独』
そんな言葉がふと頭を過ぎり、そんな自分が可笑しくなる。
「寂しいのか…この俺が?はっ…」
自嘲にも似た乾いた笑いが漏れる。
寂しいなどという感情はとうの昔に捨てたはずだった。
幼い頃の信長は孤独であった。
厳しい父。
弟へ全ての愛情を注ぎ、信長へは無関心だった母。
奔放な行動が目立つ信長を疎んじ、呆れや蔑みの目を向ける家臣達。
反発しながらも、唯一、心を許し、内心では父母以上に慕っていた傅役は信長を置いて自ら命を絶った。
愛されること、受け入れられることを切望して裏切られる。
相手を信じて手を伸ばしても、その手は決して取られることはなかった。
受け入れられないのなら、望まなければいい。
求めても得られないのなら最初から求めなければいい。
裏切られて傷付くぐらいなら最初から信じなければいい。
そうして心を凍らせて生きてきた。身内とも距離を置き、人には多くを求めず、己の力だけで生きてきた。与えられるのではなく、欲しいものは自らの手で手に入れると決めて。
それを孤独だと感じたことはなかった。
人は所詮一人なのだ。生まれる時も死ぬ時も結局は一人であり、それを寂しく感じる必要などないと思っていた。
「この俺が寂しさなど感じるはずがない。だというのに…」
この何とも例えようのない感情は何だ。
己の身から大事なものが欠け落ちてしまったかのような喪失感は。
光り輝く月に向かって手を伸ばす。
届かぬと分かっていながら、大きく広げた掌をグッと力強く握り締める。
己の揺れ動く感情を抑え付けるかのように……