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永遠の恋〜⁂番外編⁂【イケメン戦国】

第35章 昼想夜夢


信長は、そんな二人を見守りつつも、側から見れば進展のないように見える二人の関係を歯痒く思っているようだ。 
今回、秀吉と千鶴を同行させたのは、城を離れて息抜きさせてやろうという信長の気遣いかもしれなかった。

(秀吉さん達にも良い思い出ができるといいな。信長様が快く送り出して下さったのだから、私も子供達のために頑張らないと…)

「はは、きち、セミさんとってくるっ!」

「えっ!ちょっ、ちょっと待って、吉法師!あっ、ダメだよ、一人で行っちゃ…って、もうあんなところに!?」

初めて訪れた場所に興味津々であちこち見回していた吉法師だったが、大好きなセミの声がしゃあしゃあと耳に煩いぐらいに響いているのを聞いて居ても立っても居られなかったらしい。
子栗鼠のようにすばしっこい幼な子は、先程まで隣にいたはずなのに、あっと思った時には既に傍を離れていなくなっていた。

屋敷の庭に枝ぶりの良い松が植えられており、その松の木の下で吉法師は手を上に向けて小さな背をうーんっと伸ばしている。
お城の庭でも毎日セミ捕りに勤しんでいる吉法師だが、さすがに生きたセミを一人では捕まえられないので、セミ捕りとは言っても信長にせがんで捕ってもらったり、抜け殻を集めたりするぐらいなのだった。

「はは〜、とって〜」

「ええっ…む、無理だよ。届かないし…」

「やっ!きち、セミさん、ほしいの!とって!」

「ええっ…」

(困ったな、どうしょう…いつもなら信長様が捕って下さるんだけど、いらっしゃらないし…吉法師は言い出したら聞かない子だからなぁ)

今にも癇癪を起こして泣き出しそうな吉法師に途方に暮れてしまう。
手を伸ばしても到底届きそうもない大きな木の枝では、セミが我関せずといった様子で力いっぱい鳴いている。

親子二人して為す術もなく上を見つめていると、いつの間にやって来たのか、男の子が隣に立って同じように上を見ていた。

「あ、えっと…太一くん?どうしたの?皆と一緒に中に入ったんじゃなかったの?」

男の子は太一くんといって、領内の百姓の家の子だった。
学問所は身分を問わず、百姓の子も商人の子も武士の子も一切関係なく、更には大人であっても、学びたい者には等しく門戸を開いていた。

太一くんは私の問いかけには答えず、木の上をじっと見つめていたが、徐ろに草鞋を脱ぎ始めた。

「太一くん?」


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