第1章 信長様の初めての子守り
「ひ、姫様っ、何ということを…も、申し訳ございませんっ、御館様っ…」
一瞬の内に瓦礫の山と化した俺の『五重塔』を見た千鶴は、顔面蒼白で畳に額を付けんばかりに謝るが、隣の結華は一気に崩れた積み木を前に満足そうな顔をしている。
「構わん。これは気に入らなんだか…では次は何を作ろうか…?」
その後、作れば壊され、壊されれば作る、という無限地獄のような積み木遊びを延々と続けさせられるが、結華は飽きることなく楽しんでいた。
「御館様、そろそろ昼餉の刻限ですが……」
千鶴が遠慮がちに声を掛けてきて、ようやく、そんな時刻かと気づく。
(子と遊んでいると刻を忘れるな…)
「千鶴、結華の昼餉も広間へ運ばせよ。今日は秀吉ら皆と一緒にとることにする」
「ええっ! だ、大丈夫でしょうか?」
「………何がだ?」
「いえ、あの…近頃、姫様は好き嫌いもあって、なかなか膳が進まないことも多く…皆様とご一緒ではご迷惑かと…」
「ふっ…そんなこと…構わん、結華、行くぞ」
「あいっ!」
ニコニコと可愛らしい笑顔を見せる結華を抱き上げて、さっさと広間へと向かう。
その後ろ姿を見送りながら、千鶴は、はぁ…っと困惑したように溜め息を零すのだった。
広間へ入ると、既に皆揃って席に着いているようだ。
「御館様っ、結華様っ!」
秀吉が、普段見せないような緩んだ顔で、俺と結華を出迎えるのが、少し可笑しい。
「あ〜、ひでよし〜」
俺に抱っこされたまま、小さな手で秀吉の頭をよしよしと撫でる結華の何と可愛いことか…
「ゆ、結華様っ」
秀吉はもう昇天しそうな顔になっている。
「くくっ…秀吉、お前、御館様の御前だというのに、顔が崩れているぞ」
「うるさいっ、光秀、お前は黙ってろ」
「あ〜、みつひで〜」
「結華様っ、見てはいけません!邪な光秀など見ては、お目が汚れます」
「………くっ…全く、酷い言い草だな…」
サッと光秀から隠すように立ち塞がる秀吉に呆れつつ、結華を抱いたまま上座に腰を下ろす。
結華の膳は俺の隣に用意されており、子供が食べやすいようにと、小さな握り飯がいくつかと、色とりどりのお菜が小皿に乗っている。
政宗が結華の為に用意したのだろう。
(千鶴は好き嫌いがあると言っていたが、これなら食べ易そうに見えるし大丈夫だろう)
だが、俺の考えは甘かった。