第1章 信長様の初めての子守り
城門の前まで来てもなお躊躇う朱里を半ば強引に見送ると、信長は早速、結華の部屋へと足を向けた。
今日は一日、特に急ぎの政務以外は持ってくるな、と秀吉にも伝えてある。
愛しい娘と二人で過ごす一日
普段忙しい自分には、最近は朝晩の僅かな時間しか結華と触れ合う機会がない。
言葉も増えてきて、ますます愛らしさも増している。
『ちちうえ』と拙い物言いで言う姿が、本当に可愛いのだ。
早く会いたくて、部屋に向かう足取りも自然と軽くなっていた。
「結華」
呼びかけて、驚かせぬようにそっと襖を開くと、乳母の千鶴と積み木で遊んでいた結華は、俺を見て、ぱぁっと満面の笑みを浮かべる。
「ちちうえっ!」
手に持っていた積み木を放って、とてとてと歩いてくる。
(可愛い…この時分の子供は、皆こんなに愛らしいものなのか…)
両手を広げて待っていると、腕の中へスポンッと入ってきて、ぎゅうっとしがみつく。
その小さな身体を抱き上げてやると、益々嬉しそうに顔を綻ばせて、俺の首にぎゅっと抱きついてきた。
(あぁ…何という至福の時間…)
小さくて暖かい手が首筋に触れるだけで、胸の内が幸福感に包まれて、この上なく擽ったい心地になる。
(子の存在がこんなにも心を穏やかにしてくれるとは、子を持つまで想像もしなかったな…)
「ちちうえ、あそぶ?」
自分と同じ紅色の瞳をキラキラと輝かせて見つめてくる様子に、愛しさが募る。
「ああ、今日は一日、母上はお出かけだ。父と二人で遊ぼうな……何をしていた?積み木か?」
部屋いっぱいに散らばる、色々な形をした白木の積み木を拾い上げて、いくつか渡してやると、結華はとんとんと積んでいく。
まだ幼い子供のこと、何か形のあるものを作るのは難しいようで、ただ積んでいるだけだが、本人はそれだけでも楽しそうだ。
ならば、と形を選んで黙々と積んでいくと……
「…おっ、御館様…それは…」
結華の隣に控えていた、乳母の千鶴が、驚愕の表情を浮かべて、俺の積んだ積み木を見る。
寸分の隙なく組まれ、高々と積み上げられたそれは……
「……五重塔だ」
「さ、さすがは御館様です…積み木といえど、お見事な出来栄え」
感嘆の声を上げる千鶴
………が、その横からいきなり小さな手が伸びてきて、
「やぁ〜!」
ガッシャンッ! バラバラバラッ……