第34章 依依恋々
娘の手を引き、賑わう町の喧騒を耳にしながらも朱里の心はどこか寂しさを感じていた。
(華やかな京の町、やっぱり信長様と見たかったな…なんて、私ったら今更何を勝手なことを思っているんだろう)
信長と共に京の町を歩いた日のことが思い出されて、懐かしさと切なさが胸に迫る。共に行くと言って下さった言葉に素直に甘えればよかったかと、今更ながら思いもしなかった後悔が押し寄せてきていた。
「母上?」
人混みの中で不意に足を止めた母を結華は不思議そうに見遣る。
「ふふ…結華、父上と吉法師にも京の珍しいお土産をたくさん買って帰りましょうね」
気まずい気持ちに蓋をして、結華を安心させるように笑顔を見せた。
我が儘を言って出てきてしまった。
秀吉さんが間に入ってくれた後は表立って反対されることはなかったが、結華を連れて行くことも直前まで言い出せずに半ば強引に押し通してしまった感じであったので、今頃はひどくお怒りかもしれなかった。
出立の際も、折悪しく信長様は視察に出られていて会えなかったのだ。
(私の思いは伝えたつもりだけど、信長様の思いを…考えを私はきちんと聞けていただろうか。信長様は理由もなく感情だけで反対される方ではないのに…。このまますれ違ったままじゃダメだ。ちゃんと話し合わないと…)
京と大坂
離れている距離も時間もさしたるものではないのに、こうしている内にも愛しい人の心が遠く離れていってしまうような気がしてひどく落ち着かなかった。