第34章 依依恋々
暖かな陽の光が目蓋を擽り、掛布に包まれた身体が少し暑さを感じて身動ぐ。
(ん…眩し…もう朝?)
ぼんやりとした思考のまま寝床の中で寝返りを打とうとして、逞しい腕の中に捕らわれていることに気が付いた。
「…目が覚めたか?まだ寝ていてもよいぞ」
「信長様、えっ…あっ…」
(ええっと…昨夜は一緒にお酒を飲んで…飲み過ぎちゃって…えっと…その後どうしたっけ?…うぅ、思い出せない…)
「くっ…朝から百面相か?忙しない奴め」
揶揄い混じりに笑いながら、むにゅっと頬を突かれてしまう。
「うっ…あの、私、昨夜の記憶が曖昧で…もしかして先に寝ちゃいましたか?」
「久しぶりの南蛮の酒に酔ったようだな」
「うぅ…すみません」
(酔ったのはお酒のせいだけじゃない気もするけど。信長様と二人だけで過ごせる貴重な時間だったのに無駄にしちゃった)
ーちゅっ…
恥ずかしさと申し訳なさとで身を縮こまらせていると、頭のてっぺんに口付けが降ってきた。
「んっ…信長様?」
「珍しく酒に酔った貴様は実に愛らしかった。また見たいものだ」
ニヤリと意地悪そうに笑いながらも、優しい手付きで髪を梳いてくれる。落ち込む私を気遣ってくれる信長様の優しさがじんわりと胸に染みていく。
しばらくそうして二人で褥の中でまったりと過ごしていたが、時が経つのは早いもので支度をする時間になってしまった。
信長様の着替えを手伝いながら満ち足りた気持ちでいたが……
(……あれ?う〜ん、何か忘れてるような気が…あっ!?)
「信長様、あのっ…今少しお時間よろしいですか?お話したいことがあって…」
「ん?」
純白の羽織を纏い、身支度を整えて部屋を出ようとしていた信長様を慌てて引き止める。
昨夜話したいと思いながらすっかり忘れてしまっていた話を今まさに思い出したのだ。
「急ぎの話か?でなければ朝餉の席で聞くが?」
「あ、できれば今この場で…」
内密の話というわけではなかったが、武将達のいる前で話すと大事になってしまうといけないと思ったからだった。
それは昨日、慶次から頼まれた頼み事だった。