第34章 依依恋々
桃の実の甘さを期待していたら、いきなり口を塞がれてしまい、開いた唇の隙間から舌先が滑り込む。
それと同時に柔らかな桃の実も口の中に滑り込んで来た。
桃の実には酒がたっぷりと染み込んでいて、果実の甘い香りと酒の強い香りが口内にふわりと広がっていく。
(んっ…甘い)
甘ったるいお酒の味の口付けに酔いそうになる。
貪り尽くすような深い口付けは、息を吐く暇もなく角度を変えて何度も重なり合う。桃の実を転がしながら這い回る信長様の舌の動きに翻弄されながら、躊躇いがちに私からも舌を絡める。
口内に残った桃の実はそのままに、絶え間なく与えられる快楽に溺れていく。
「っ…ふっ、んっ…はぁ…」
思うように息が出来ないもどかしさと酔いによる高揚感でどうにかなってしまいそうなほどに思考が覚束なくなった頃、漸く信長様の唇が離れていった。
「んっ…信長さまっ…」
昂った熱がじんわりと冷めていくのが名残惜しい。
残った桃の実に歯を立てると、柔らかく熟した実はぐちゅりと潰れて口内に強い酒の香りが広がっていく。
「美味いか?」
熱い口付けを交わした後だからか、熟した桃の実が何とも艶めかしく感じてしまい、俯きながらもごもごと恥ずかしそうに口を動かしていると、信長様は揶揄い混じりの問いかけとともに口の端にちゅっと口付けた。
「!?も、もぅ…ダメですよ!」
「ん?なんだ、俺には食わせてくれぬのか?」
「えっ…あっ…」
思わずゴクンっと飲み込んでしまい気まずくなる私に向かって信長様は目を閉じて唇を突き出す。
「っ……」
(今度は自分に食べさせろってこと?ふふ…信長様、可愛いな)
子供のように屈託なく食べさせ合いを強請る姿が可愛くて胸がきゅんっと高鳴る。いそいそと桃の実を摘んで、信長様の口元へと持って行った。
「信長様、口を開けて下さ…っ、ひゃっ…」
いきなり腕を掴まれて引き寄せられると、信長様の整った美しいお顔が目の前に迫る。
あっと思った瞬間、これ以上ないほどに意地悪な笑みを浮かべた信長様にばくっと桃の実ごと指先を口に含まれてしまっていた。
「んっ…やぁっ…」