第5章 信長の初恋
「んっ…もぅ、信長様っ!昼間から…ダメですっ!」
はぁはぁと荒くなった息を整えながら軽く睨んでみるが、信長様はどこ吹く風といった調子で全く気にしていない様子だった。
「貴様に口づけるのに、時間など関係ない。
俺以外の男からの文に、嬉しそうな顔などするのが悪い。
………初恋の相手とは、それほど特別なものか?」
「私の中では良い思い出です。過去の、大切な思い出。
……信長様だって、初恋の思い出、ありますでしょう?」
何気なく聞いた私の言葉に、信長様は至極複雑な表情になる。
「初恋ねぇ……俺には理解できん」
「えっ、でも、信長様にも過去にその、好きな方…とか、いらしたでしょう?」
私と恋仲になる前には、数多の女性に言い寄られていたと、秀吉さんから聞いたことがある。
その中には、好いたお方もおられた…のだろうか…
信長様が女性達に人気があるのは理解している。
私と恋仲になってからは、他の女性に目を向けたことはない、ということも知っている。
それでも、気になる。
信長様が初めて好きになったお方は、どんな人なんだろう、と。
「……過去のことなど、いちいち覚えていない。今、俺の隣におるのは貴様だろう?これから、貴様との思い出が残っていけば、それでよい」
「信長様……」
嬉しい…私との今が大事だと言ってくださる…信長様の愛が深く感じられて、心が震えた。
でも…聞きたくて堪らないのも事実なのだ。
「ありがとうございます、嬉しいです。
でも…信長様の初恋のお話、聞いちゃダメですか?」
「……聞きたいのか?」
「ん…信長様が初めて好きになった方がどんな人なのか、気になってしまって……」
「…幼き頃の話だ、他愛もない。面白くも何ともない話だぞ」
「それでも……聞きたいです」
(信長様の過去…辛い記憶が多いのか、自分からはあまり話しては下さらない。
話して下さる時は、淡々と人ごとのように言われるから、あまり振り返りたくないのかもしれない)
「はああぁ〜」
信長様は、心の中のものを全て吐き出すかのように、大きな溜め息を吐くと、ゆっくりと重い口を開く。
「…後で、後悔しても知らんぞ?」