第5章 信長の初恋
従兄妹の高政が小田原へ戻ってしばらく後、北条家の家督を継いだ弟から、信長様へ文が届いた。
それは、家督相続の承認を頂いたことと、使者である高政への厚遇に対するお礼の文だった。
読み終わった文を丁寧に折り畳んで信長様へ返すと、信長様は懐からもう一つ文を取り出した。
何となく不機嫌そうな顔をしながら……
(っ…あれ?どうなさったのかな…?)
「信長様、この文は……?」
差し出された文を受け取りながら、さりげなく宛名を見ると、私宛てになっている。
はて、誰から…?と思い、裏返すと、
「っ…高政から…私に?」
はっとして顔を上げると、信長様は益々不機嫌そうに顔を顰め、プイッと横を向いてしまわれた。
「あ、あの…今、ここで読んでも?」
「ここで読め、自室でこっそり読まれる方が腹立たしいわ」
「す、すみませんっ…では…」
表書を開いて、中の文を取り出し、そっと開くと、高政の力強くしっかりとした文字が目に飛び込んでくる。
安土での滞在の礼と、私の身を気遣う言葉
小田原の父母の様子 高政自身の近況 など、
書かれていた内容は他愛ないものだったが、形式的な弟の文とは違い、故郷の様子を感じ取れる文をくれる、高政の気遣いが嬉しかった。
「……嬉しそうだな」
ぼそっと不満げに呟く声に、信長様のお顔を真っ直ぐに見つめて微笑んだ。
「ふふ…嬉しいですよ」
「チッ、臆面もなく言いおって…貴様は誰のものか、今一度教えてやらねばならぬか?」
「あっ…んっ…ふ…」
ついっと顎を掬われて、噛み付くように口づけられる。
重なった唇から、嫉妬の熱がじわじわと広がっていくような気がして、胸がドキドキと煩く騒ぐ。
ーちゅっ ちゅうっ くちゅっ
角度を変えて何度か重ねられた後、信長様の熱い唇が離れていく頃には、私は力が抜けてしまい、はぁはぁと肩で息をしていた。