第33章 ハッピーイースター〜春待ちて
食事会も無事に終わり、ご褒美を手に笑顔で帰って行く子供達を見送ってから自室へと戻る。
「はぁ〜疲れたぁ。今日一日で結構歩き回ったもんなぁ。お陰でご飯が美味しく頂けたけど」
大広間の襖を開け放ち、庭の夜桜を見ながらの食事会では、筍や山菜、川魚など旬の食材をふんだんに取り入れた料理に大いに舌鼓を打った。
学問所の子供達も城へ来た時は緊張していた様子だったが、食事会が終わって帰る頃にはすっかり慣れて、結華や吉法師とも打ち解けた様子だった。
日頃は私や乳母など大人に囲まれている吉法師も、年上の子供達にたくさん構ってもらえて嬉しそうだった。
武士の子も町人の子も生まれに関係なく共に学んだり、遊んだりできる世。
信長様が目指す、日ノ本の全ての人が等しくある天下泰平の世の姿は、次代を担う子供達にとって当たり前の姿になっていかなければならないのだと改めて思う。
充実した時間を過ごせた満足感に浸っていると、廊下の方から聞き慣れた足音が近付いてきて……
「朱里、俺だ」
「えっ…あ、信長様?」
慌てて居住まいを正したのと襖が勢いよくスパンっと開いたのは同時だった。
「子供らは寝たか?」
「あ、はい、今し方。信長様は…どうされました?」
「貴様を迎えに来た。湯浴みに行くぞ」
「えっ、湯浴み??」
「まだだろう?行くぞ」
「ちょっ、ちょっと待って下さい。いきなりそんな…えっ、一緒に入るってことですか?」
「当たり前だ」
(そんな当然みたいに言われても…そりゃ、日頃一緒に入ることもあるけど、今日は急にどうなさったの?)
一緒に湯浴みをすることが嫌なわけはなかったが、信長様の意図が分からず、すぐに応じることができないでいた。
「一日中動き回って疲れただろう?俺が背中を流してやる」
「そ、そんな…」
(確かに疲れてるけど、信長様に背中を流させるほどじゃない!)
戸惑っている間にも、信長様は侍女達に私の湯浴みの支度をするよう指示をしている。
そうしてあれよあれよという間に支度は整い、私は信長様に手を引かれて湯殿へと向かうことになっていた。