第33章 ハッピーイースター〜春待ちて
家康はきっと私を一人で庭に行かせるわけにはいかないと思い、気を遣って付いて来てくれたのだろう。そんな家康を庭中連れ回すわけにはいかないと思い、その場で待っていてくれるように言って歩き出そうとしたのだが、家康は当然とばかりに私の横に並んだ。
「待って。俺も一緒に行くから。でも…竹林なんて珍しくも何ともないよね。竹を見て春を感じるわけでもないし」
「う〜ん…それは私もそう思うけど」
家康の言うように格別な期待はしておらず、一応は確かめておこうか、ぐらいの軽い考えだった。
ところが、家康と共に竹林の近くまで行き、真っ直ぐに伸びる竹の根元を見てその考えは覆される。
「家康っ、あれって…」
竹の根元には地面からニョキっと頭を突き出した筍があった。
「筍…こんなところに生えてるなんて。そういえば、これは春にしか見られないね」
筍は竹の地下茎から出る若芽の部分で、地上へ出た筍の成長は非常に早く、食用にする場合は先が地面に出た段階で掘り起こすが、そのまま放っておくとどんどん伸びていく。そうして表面の皮が剥がれ落ちて竹になるのだ。
(生育してもそのまま皮が剥がれない種類のものもあり、その場合は笹になる)
先程、厨で見たのは今朝掘り起こしたばかりの朝採れの筍だと政宗が言っていた。
この時期になると、旬の筍料理が膳に上る機会も多くなるが、まさかお城の庭にまで筍が生えているとは思わなかった。
「庭に筍が生えるって…どんだけ手入れが行き届いた庭なんだよ。で、ここに例の卵はあるの?」
「どうだろう…ちょっと待って、見てみるから」
竹の根元に蹲み込み、筍が顔を出している辺りの地面を覗き込む。
表面の土に少し触れてみると、思ったより柔らかかった。
「もしかして土の中に埋まってるとか…それなら分からなかったはずだよねぇ…っ、あっ!」
確信がないままに軽く土を左右に払っていると、土の中に異質な赤色が見えたような気がして手を止める。
(あった!)
「家康っ、あったよ!」
土中から取り出した赤い卵に描かれた見覚えのある木瓜紋に思わず頬が緩む。
少し土が付いてしまっているが、描かれた模様は美しいままだ。
「はぁ…ご苦労さま。ったく、埋めるなんてやり過ぎでしょ、政宗さん」
「はは…まぁ、ついでに春の食材も収穫できたし、よかったんじゃない?早く持って帰ろう」