第33章 ハッピーイースター〜春待ちて
「あ、おい!探すのはいいが料理が出来上がるまでには戻れよー」
「うん!手伝えなくてごめんなさい」
政宗一人に食事会の準備を任せてしまい申し訳なく思いながらも、厨を出た私は武将達にも声を掛けて、再び庭へ出た。
「う〜ん、この時期にしか見られないものって何だろう?」
陽が西へと向かいつつある今、なるべく早く見つけなければならなかった。
吉法師とともに散々見て回った庭を、一人で再び歩き始める。
昼間は子供達の賑やかな声が響いていた庭だが、今はひっそりと静まり返っていて何だか物哀しく感じてしまう。
(昼間は春を告げる花々が今を盛りと咲き誇っていたけど、夕闇が迫っている今は花弁も閉じかけている。それで余計に寂しく感じてしまうのかしら)
大坂城の庭は四季折々の風景を楽しめるように設計されていて、どの季節にも何かしらの花が楽しめるようになっているのだが、今の時期は桜や木蓮、菜の花などが美しく咲いていた。
庭には花を付ける木々が多いが、池の傍の一角には小さな竹林もあって、真っ直ぐに伸びた青竹が時折風に揺れるサラサラという荘厳な音が聞こえていた。
春らしい明るい色が溢れる庭で、竹林があるその場所は落ち着いた静けさに包まれている。
(そういえば、昼間あの辺りには行かなかったな)
どちらかと言えば侘び寂びの世界を感じさせる竹林は、子供らの興味を惹かなかったようだ。水辺は危険なこともあり、幼い子供達だけでは池の傍には近付かないようにと注意をしていたこともあって私と吉法師もその辺りには行っていなかった。
「竹は一年中あるから春にしか見られないってことはないけど…」
手入れの行き届いた青々とした竹がいくつも天に向かって真っ直ぐに伸びる様は美しいが、季節に関わらずいつでも見られる風景だ。
「ねぇ、いつまで探すつもり?そろそろ日が暮れそうだけど」
竹林の方へ向かいかけた私に面倒そうに声をかけたのは家康だ。
政宗から聞いた手掛かりのことは皆にも伝えたのだが、武将達はこの後の準備に忙しく、私と一緒に庭へと出てくれたのは家康一人だったのだ。
とはいえ、家康は宝探しにはさほど興味はなさそうだった。
「ごめん、家康、付き合わせちゃって。暗くなる前には戻るから…あの竹林の辺りだけ、ちょっと見て来るから待ってて」