第33章 ハッピーイースター〜春待ちて
「はは、たまご、あったぁ!」
「えっ、わっ、凄いね、吉法師。それ、もう三つ目?」
吉法師が自慢げに見せてくれたのは、星の模様が描かれた卵だ。
「おほしさまのたまご。ちちのたまご、ちがう…」
「う、うん、そうだね」
(吉法師は信長様の卵狙いなんだ。うっ…望みが高い)
幼な子は数では満足しないらしい。
見つけた卵が父の特別な卵でなかったことに、吉法師はあからさまに落胆している。
見るからに表情が曇ってしまった吉法師に慌てて声を掛ける。
「吉法師、ほら見て。お花が綺麗に咲いてるね。蝶々もいるよ」
「ちょうちょさん?」
卵探しも楽しいが、子供達には季節の草花や蝶や虫など、この時期にしか見られないものを目で見て触れて直接感じて欲しかった。
「ははー、みてみて、かわいいおはな!」
ひらひらと優雅に舞う蝶々の後を追っていた吉法師だが、大事そうに両手を包み込んで駆けて来ると、弾ける笑顔のまま、手のひらをパッと開いた。
「えっ…あ、桜?」
吉法師の小さな手には可愛らしい桜の花びらが乗っていて、目の前を薄桃色の花びらがひらりと舞って行った。
舞い落ちる花びらを追って見上げれば、今を盛りと咲き誇る八重桜が雲一つなく晴れた青空を背に時折花びらを散らしていた。
(わぁ…桜も今がちょうど見頃だったんだ。下を向いて卵探しばかりしていたから気付かなかった)
イースターはキリストの奇跡の復活を祝うとともに、穏やかな春の訪れを祝うものでもあるのだという。
こうして春を感じながら子供達と過ごす時間がかけ替えのない大切な時間に思えて、言い様のない幸福感に包まれる。
多くの子供達の愉しそうな笑い声があちこちで聞こえる。
日頃は大人ばかりの大坂城内が今日は一際賑やかで活気に満ちている。
子供達には異国のお祭りの意味など分からなくても、戦の恐怖や飢え、貧しさなどを感じずにこうして穏やかで満ち足りた時を過ごして欲しいと思う。
異国の文化を肌で感じて、大人も子供も、武士も町民も、誰もが等しく季節の移り変わりに喜びを感じられる、そんな世になって欲しい。
幼な子の小さな手を握り、緩やかに舞う桜の花を見ながら、そんなことを思った。