第33章 ハッピーイースター〜春待ちて
そうして信長様の命により、大坂城でイースターのお祭りが催されることになった。
「母上、出来ました!これでどうですか?」
筆を片手に真剣な表情で卵形に模様を描いていた結華は、完成した卵形をどうだとばかりに見せてくれる。
「わぁ…綺麗!上手に塗れたね、結華」
色同士がはみ出すことなくきちんと塗られているのが几帳面な性格の結華らしいなと微笑ましく思いながら、朱里は愛娘を褒める。
「はは!きちもできた!きちのまんまるたまごもみて!」
姉に負けじと吉法師も手にした卵形をずいっと見せてくる。
まだ幼い吉法師には筆で絵付けをするのは難しいため、大きめの絵皿に広げた絵の具の上で卵形を転がして、直接色を付けるやり方でやらせていた。
吉法師は手の平を様々な色の絵の具だらけにし、あちこちに絵の具を飛ばしながらも自慢げな様子で胸を張る。
「吉法師も上手に出来たねぇ!凄い凄い!」
「きち、じょうず!えへへ」
(結華も吉法師も楽しそうでよかった。イースターの準備、子供達にも手伝ってもらって正解だったな)
イースター当日の卵探しだけでなく、事前の準備もまた珍しく興味深いものになるだろうと思い、こうして子供達とともに卵形の絵付けをすることにしたのだが、予想以上に二人とも楽しんでやっているようだ。
本来は中身を抜いた卵の殻に装飾を施すのだそうだが、日ノ本では卵は食材として貴重なものなので、卵形にして焼いた陶器に絵付けをすることにしたのだ。
「きち、このたまご、たべたい…」
「えっ…だ、ダメだよ、吉法師!それは食べられないの!」
自分で色を付けた卵形をじーっと見つめていた吉法師だが、お腹が空いたのか、それを食べたいと言い出すので慌ててしまった。
「やっ!たまご、たべる!」
「ええっ…」
(吉法師が卵料理が好きなの忘れてた。う〜ん、どうやって言い聞かせようか…)
信長様に似て言い出したら聞かない性質(たち)の息子を宥めるのは毎回至難の業なのだ。
「吉法師ったら、そんな派手な色の卵を食べたらお腹が痛くなっちゃうわよ。いいのかなぁ?お腹が痛くなったらお八つは食べられないよねぇ?母上のお八つ、今日は何かなぁ?」
「やっ!いやだぁ、おやつ、たべるの!きち、たまご、もういらない!」
我を主張し始めた子を前に途方に暮れかけた母に対して、機転を効かせてくれたのは結華だった。