第33章 ハッピーイースター〜春待ちて
(イースターかぁ…異国には楽しそうなお祭りがあるのね。信長様がお好きそうな話だわ。それにあの卵の装飾もすごく綺麗。子供達が見たら喜ぶだろうな)
「信じる神は違えど、イースターという催しは日ノ本の民らにとっても楽しめそうだな。一度やってみる価値はある」
信長の言葉を聞いた神父は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「イースターはキリストの復活を祝うとともに、厳しい寒さの冬を越え、温かな春の訪れを皆で祝うという意味合いもあるのです。イースターを楽しむのであれば『エッグハント』をやってみられてはいかがでしょう?」
「えっぐはんと?何だ、それは?」
「『エッグハント』は卵探しの遊びです。室内や庭に隠したイースターエッグを子供達が宝探しの感覚で探し出すのです。この時期、外へ出れば春の草花が芽吹き始めており、蝶や虫たちが優雅に飛び回る姿を見ることもできるでしょう。春を感じながら卵探しをすれば子供達だけでなく大人にも楽しい時間となります。卵型の容器の中にお菓子を入れたものを隠したり、見つけた卵の数に応じて景品を用意したりするのも良いですよ」
「わぁ…宝探しですか?それは子供達が喜びそうですね」
『宝探し』という言葉に思わず子供のように歓声を上げる朱里を信長はチラリと横目で見て表情を緩める。
武家の女子は感情を面に出さず、常に己を律してその言動は控え目であることが好ましい、などと世間的には言われることが多いが、朱里は思いのままにくるくると表情を変え、時に子供のような無邪気さを見せる愛らしい女だった。
一方では淑やかで控え目な性格、道理を弁えた大人の女らしく振る舞える反面、そうした純粋で飾り気のない可愛らしさを自然に見せるようなところが信長の心を捕らえて離さないのだ。
「貴様はまた子供のようなことを言いおって…」
(そういうところが愛らしくて堪らんのだが)
「だ、だって『宝探し』ですよ?信長様。絶対に楽しいに決まってるじゃないですか!子供達もきっと夢中になりますよ!」
「そうだな。結華も吉法師も貴様に似て好奇心旺盛ゆえな」
「まぁ!私は二人とも信長様似だと思ってましたけど?」
「くくっ…ならば似たもの家族ということか」
朱里を揶揄うように愉しげな笑い声を上げながらも、信長は胸の内がふわっと暖かくなるような言い様のない居心地の良さを感じるのだった。