第33章 ハッピーイースター〜春待ちて
朱里が色とりどりの羽色をした鳥を漠然と思い浮かべていると、隣で卵(のようなもの)を手に取ってまじまじと見ていた信長が口を開く。
「これは何だ?どのように使う?」
溢れる好奇心を隠そうとしない信長に、神父は天下人との謁見で緊張に強張っていた表情を僅かに緩めた。
「これは『イースターエッグ』といって、特別に装飾された鶏卵です」
「いーすたーえっぐ?何だそれは?どういう意味だ?」
「イースターとは『復活祭』のことです。十字架にかけられて亡くなったイエス・キリストが三日後に復活したことを祝うお祭りで、我々キリスト教徒にとってはクリスマスと同じくらい重要な催し事なのです」
「死んだ者が復活するなど有り得ん話だな。それは貴様らが信じる聖書とやらに載っている話か?」
「はい。偉大なる主、イエス・キリストの奇跡として誰もが知るお話です。
イエス・キリストは弟子の一人であるユダに裏切られ、ゴルゴダの丘で十字架に磔にされ処刑されてしまいます。
キリストは処刑前、弟子たちに「処刑後三日目によみがえる」という予言を残しました。生前の予言通り、キリストは三日後に復活するという奇跡を起こします。キリストの復活を目の当たりにした弟子たちは、喜びに沸き立ちました。これがイースター(復活祭)につながったと言われています。イースターはイエス・キリストが死から復活したという最大の奇跡を祝うためのお祭りなのです」
神父は、あたかもキリストの復活を目の当たりにした弟子の一人であるかのように陶酔した表情を見せる。
「ふむ…イースターとやらについては分かった。だが、それとこの卵がどう関係する?」
「新しい命が誕生する卵は生命や復活の象徴とされ、一度処刑された後に復活したイエス・キリストを連想させるためだと言われています。そのため、イースターでは卵料理を食べたり、このように装飾された卵を飾ったり、卵を使った遊びをしたりして大人も子供も皆がキリストの復活を祝うのです。
我々の暦ではこの月はちょうどイースターの月なのですよ」
「ほぅ…それは興味深いな。死んだ者が復活するなど信じ難い話だが、イースターという祭は面白そうだ」
信長は神父の話に興味を惹かれたのか、愉しげに口の端を緩める。
新しい知識を得ることに貪欲な信長は、異国の文化、風習など日ノ本にはないものも積極的に取り入れようとしていた。