第33章 ハッピーイースター〜春待ちて
その日、信長様から大広間に呼ばれた私は珍しい客人を前に興味津々だった。
(この方が新しく南蛮寺に来られた神父様なのね。今日はどんなお話が聞けるのかしら?)
大坂城下には信長が建てた南蛮寺があり、伴天連(外国人宣教師)たちが織田家の庇護の下で布教に励んでいた。
信長は、政に介入しなければ仏の教えも異国の神の教えも等しく扱っていたが、新しいものへの関心が人一倍強いこともあって、はるばる異国からやって来た伴天連たちには好意的で、彼らから様々な話を聞くことを好んだ。
自ら南蛮寺へ赴いたり、宣教師たちを城へ呼んだりして親しく話をする信長を宣教師たちもまた好ましく思っているようだった。
朱里もまた信長と共に南蛮寺を訪れては異国の文化を学ぶ機会を楽しみにしていた。
「信長様、お会いできて光栄です。日頃よりの南蛮寺への手厚い御配慮、感謝致します。これからもよろしくお願いします。これは私からの贈り物です」
神父は恭しく言上を述べると、傍らに置いてあった品々を信長の前に披露した。
「ほぅ…これは…」
(わぁ…見たことのないものがいっぱいあるな。信長様も興味深そうになさってる。ん?あれ…何だろう??)
様々な珍しい品が並べられている中で、それは一際目を引いた。
それというのも、見たことがないような鮮やかな色合いだったからだ。
「これは…何だ?」
信長様も私と同じ疑問を抱かれたようだ。
そっと手を伸ばしてそれを指先で摘むと、目線の高さに掲げてじっと見つめている。
色鮮やかな着色が施された不思議な模様が描かれているそれは卵のような形をしていた。
この時代、卵は滋養のある食べ物として貴重な食材だったが、朱里は日頃から自分で料理をすることもあり、卵を目にする機会も多かったのだ。
(あれ、何だろう?形は卵に似てるけど…卵って白色だったよね?あんなに鮮やかな色のものは見たことがないわ。あれは一体、何の卵なの??)
日頃、料理に使っているものはニワトリの卵だというが、朱里の知っているニワトリは白い羽色をしていた。
(白い鳥からは白い卵が生まれるのではないの?ならば、この鮮やかな色合いの卵は一体どんな鳥から…?)