第32章 専属女中は愛されて
朝夕の食事は同じものを用意してくださり、お茶を持っていけば茶菓子を分けて下さる。身の回りの支度を手伝っただけで頭を撫でられたり、手の甲に口付けられたり…と、単なる女中に対する待遇としては些か度が過ぎていた。
(働きぶりを褒めてもらえるのは嬉しいけど、これじゃあ、いつもどおり甘やかされてばかりになってる気がする。周りの目も気になるし)
信長様の私への過剰な甘やかしぶりに、滞在先のお城の人達に『城主と女中』以上の不適切な関係を疑われているのではないかと心配になっていた。
(こんなことなら最初から恋仲として同行するべきだったかな?でもそれだと今以上に甘やかされてた気もするし…)
「どうした?疲れたか?」
モヤモヤと思い悩んで黙ってしまっていた私の顔を、信長様は心配そうに覗き込む。
「疲れたのなら少し休むか?ちょうどあそこに茶屋がある。好きなだけ甘い物でも食えばよい」
「えぇっ…や、ちょっと待って…」
返事をする前にさっと手を取られたかと思うと、信長様は迷うことなく茶屋へ向かって歩いて行く。
自然な感じで手を繋がれてしまい、周りの目が気になってソワソワするような、それでいて大好きな人と触れ合えることが嬉しいような、何とも複雑で落ち着かない気分になる。
戸惑う私に構わず、信長様は店先の縁台に腰掛けるとさっさと注文を済ませてしまった。
「朱里、座れ」
そう言うと自身の膝をポンポンと叩いてみせる。
(えっ…それって…膝に座れってこと!?そ、それはさすがにダメでしょ!?)
「いえ、私は…あ、あの、隣に…っ、きゃっ…」
さすがに膝の上に座るのは恥ずかし過ぎるので遠慮がちに隣に座ろうとしたが、信長様に強めに腕を引かれて体勢を崩してしまった。
よろけた私は信長様に引き寄せられて、ストンと膝の上に納まっていた。
「貴様の場所はここと決まっておる」
信長様は満足そうな笑みを浮かべて私を腕の中に閉じ込める。
背中からぎゅっと抱き締められて、耳元に信長様の吐息がかかる。
「っ……」
とびきりの甘い触れ合いに一気に身体の熱が上がってしまい、心の臓が激しく高鳴る音が大きく感じられた。
「朱里…」
耳奥に注ぎ込むようにそっと囁かれた色っぽい声と柔らかく耳朶を喰む唇の感触に理性が呆気なく弾き飛びそうだった。
(んんっ……)