第32章 専属女中は愛されて
「ま、待って下さい!私は自分で着替えますから、お、御館様はお先に中へ…」
湯浴みの手伝いをする女中は専用の湯浴み着に着替えるのだ。
「必要ない。貴様はいつもどおりそのままでよい」
(そのままって…は、裸で一緒に入ったりなんかしたら…どうなるか分からない!)
焦っているうちにも、あれよあれよという間に帯は解かれ、小袖は床に落とされていた。
続けて襦袢の腰紐をしゅるりと引き抜くと、袷をゆるりと和らげた信長様は露わになった鎖骨の辺りにチュッと音を立てて口付けた。
「っ…はっ、んっ…」
いきなりの熱い唇が吸いつく感触に、はしたない声が洩れてしまう。
「あっ…んっ、ダメです、そんなっ…」
「ふっ…いつもしていることだろう?何が駄目なのだ?」
鎖骨に軽く口付けただけで簡単に艶めかしい吐息を溢す朱里の愛らしさに、信長はこのままここで組み敷いてしまいたい衝動に駆られていた。
「それは…私は今、女中なので…っ、女中とはこんなこと…んっ、なさらないです…よね?」
「…………」
あくまで女中に徹しようとする朱里の生真面目さに鼻白む思いになりながらも、必死に役目を果たさんとする健気な姿は愛らしくもあった。
「女中ならば、主人(あるじ)の命には従わねばならぬのではないのか?」
健気で愛らしいがゆえに虐めてやりたくもなる。
「んっ…あっ、やぁ…」
耳元で意地悪く囁きながら、耳朶に柔らかく歯を立てる。
「もっ…やっ、あっ…お、御館様っ…止めっ…」
「……名を呼べ。いつものように…そうすれば止めてやる」
女中としてのけじめのつもりなのか、朱里が頑なに自分を『御館様』と呼ぶことに信長は何とも言えない苛立ちを感じていた。
(たかが呼び方一つで大人げないと思われるかもしれないが…)
「っ…でもっ…」
促すように指で口の端をなぞり、固く引結ばれた唇を強引にこじ開けると、口内を犯すように指先を咥えさせた。
「言え」
「んっ…ふっ…の、のぶながさまっ…もっ、やめ…」
目尻に薄っすら溜まった涙に多少の罪悪感を覚えながらも、信長は息を乱して苦しそうに喘ぐ朱里を宥めるように、額に柔らかく口付ける。
「っ、ふっ…んっ…」
「愛らしく呼べた褒美だ」
(こんな甘いご褒美、初日からこんなに甘やかされたら…身が持たないよ…)