第32章 専属女中は愛されて
「朱里、ちょっといいか?」
執務室を辞して自室に戻ろうと廊下を歩いていると、急ぎ足で追いかけてきた秀吉さんに呼び止められた。
「秀吉さん、どうかしたの?」
「ん、さっきの話なんだけどな。御館様はああ言われていたが、俺としてはやはり朱里が同行してくれると助かる。北条家の姫であるお前に女中の仕事をさせるのは気が引けるんだが、無理を承知で…頼めないか?」
「無理だなんてそんなこと…私は信長様のお役に立てるなら何だって嬉しいよ。でも、信長様には私が女中として同行することは許さないって、はっきり言われちゃったし…」
「お前を女中として働かせるのは俺としても忍びないが…全ては御館様のためだ。当の御館様が何と言われようと、臣下としてそこは絶対に譲れない」
信長様第一の秀吉さんにしては珍しく、信長様の意向に背くようなことを言う。どうやら本気みたいだ。
「俺に任せてくれ。御館様には内密にお前が視察に同行できるように取り計らう。だから…御館様を頼む!」
「は、はいっ!」
今にも床に額を擦り付けんばかりの勢いの秀吉さんに圧倒されて、私もまた勢いよく返事をしたのだった。
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そうした成り行きで、信長様には内密に秀吉さんの図らいにより私はこっそりと安土を出て、視察先の大名家のお城へと先回りして乗り込んだのだった。
視察先の大名家が信長様のお父上の代からの付き合いがある親密な先ということで、秀吉さんからの申し出とはいえ突然先乗りしてきた女中(私)を温かく迎えてくれたのは幸いだった。
(秀吉さん曰く、『既に来てしまった者を追い返すようなことはなさらないだろう』という多少無理矢理感が否めない策だったけど、信長様は不機嫌そうとはいえ一応は私を女中として認めてくれた…のかな?)
先に立って湯殿への案内をしつつ、背後の信長様の様子が気になって仕方がない。
「…朱里」
「は、はい…っつ、ひゃっ…」
湯殿の入り口に着いて、先に信長様をお通しするためにその場に跪いた私を信長様はいきなり抱き上げて中へと入った。
「やっ…何を…お、降ろして下さい!」
「全くもどかしい。湯浴みなど、さっさと済ませるぞ」
そう言うと、信長様は私を抱えたまま器用にも片手だけで脱ぎ始める。そうして、あっという間に下帯だけになると私の着物の帯にも躊躇いなく手を掛けた。