第4章 信長様の初めてのお菓子作り
出来立ての菓子を口にして幸せそうな笑顔を見せる朱里が、堪らなく愛おしく思える。
ふいに口元に手を伸ばし、指先でその柔らかな唇に触れる。
「っ…あ、あの…信長さま……?」
「ふっ…粉がついていたぞ?」
「やっ、やだ…すみません……」
さっと朱に染まった頬を、両手で押さえる愛らしい姿に、恋情が湧き上がる。
「あっ、そうだ、信長様、この少し余ったそば粉、頂いてもいいですか?」
「構わんが…どうするのだ?」
「うふふ…これでもう一つ、お菓子を作ってみようと思って…」
悪戯っぽく笑う姿が、また愛らしい。
朱里は、余ったそば粉に卵と塩を少々加えて、水を少しずつ加えながら混ぜていく。
出来上がった生地はトロリとしていて、それを薄く広げて両面焼いていく。
焼き上がった生地はモチモチとしているようだ。
「朱里、これは何だ?」
「そば粉の『がれっと』という異国のお菓子です。この生地の上に蜂蜜をかけたり…あっ、餡子をのせて食べても美味しそうですねっ!」
(餡子か…確かに、美味そうだな……)
「厨の者に命じて、早速、餡子を用意させる。
結華が起きたら、三人で一緒に食おう」
「ふふ……はいっ!」
俄に思い立った『初めての菓子作り』は、想像した以上に愉しくて心躍るものだった。
甘いものは、心を穏やかにし、人を一瞬で幸せな心地にする。
何かを作り、完成した時の喜びもまた、人の心を満たすものだ。
だが……それらも、一人ではなく、愛しい者と共に為すからこそ、また、その幸福も格別のものとなるのだろう、と素直にそう思えた信長なのだった。